VOL.66 7月号


NZで活躍する日本人

時代を飾るキウィ




Career up in NZ : 専門職に就いてキャリアアップ中

<オークランド大学 教育心理学講師 & 博士課程研究生/ PhD Candidate Educational Psychology & Applied Linguistics University of Auckland:水谷 公美さん | メイン | ブライダル ヘア&メイクアップ/NZLA学生 / Bridal Hair & Make-up:AmicaleNZ / Limited Student:NZLA:増田 渓子さん>

オークランド大学 教育心理学講師 & 博士課程研究生/ PhD Candidate Educational Psychology & Applied Linguistics University of Auckland:水谷 公美さん

勇気を与えてくれたニュージーランドに
教育の専門家として貢献すること。
それが、私の今後の役目だと思っています。

 

  現在、オークランド大学の教育学部と応用言語研究学部の博士課程で研究をしながら、同大学で教育心理学の講師としても働く水谷公美さん。1995年にNZへ渡航して以来、つねにNZの教育分野に関わってきたという彼女。そんなNZの教育現場と繋がりを持ちつづけ、今現在NZの教育界の中枢であり、権威者の揃う研究室に在籍する公美さんに、これまでの道のりとNZの新教育アセスメントシステムNCEAについて語っていただいた。

Satomi Mizutani
水谷 公美
1971年生まれ。兵庫県淡路島出身。県立洲本高校、英語コースの第1期生として卒業。関西学院大学、文学部英文学科卒業。在学中トロント大学でも英語を学び単位を取得。輸入食品を取り扱う流通業者イタリアーノに就職。1995年NZへ渡航。小学校と高校でアシスタント・ティーチャーとして働く。1997年、オークランド・カレッジ・オブ・エデュケーションで日本語教師になるために勉強。1998年、オークランド大学で日本語講師として働く。同大学、応用言語研究学部修士課程で第二言語習得理論を勉強。現在、同大学、教育学部と応用言語研究学部博士課程で研究の傍ら、教育心理学講師を務める。今年8月、ハンガリーのプダペストで行われる国際教育学会で、NCEAの研究論文発表予定。

 

様々な英語習得環境との出会い

現在、オークランド大学の教育学部と応用言語研究学部の博士課程で研究しながら、週に一度、同大学で学生たちに教育心理学を教えています。教壇に立っていると、私は本当に教えることが好きで、もっと良い教育者になりたいって心から思うのです。
 はじめて英語に興味を持ったのは高校生の時でした。私の出身地の兵庫県が、県立高校に英語コースと理数コースのどちらかを設置するという新制度を導入した年に高校に入学し、私は地元の高校の英語コースに進学したのです。そこでは従来のような英語の勉強ではなく、コミュニケーションの手段として英語を学びました。たとえば、毎朝、ビートルズやカーペンターズの曲で一日がはじまり、洋画を観て英語の台詞を書いたり、英語で天気予報を見たり、英字新聞を読んだりして。英語のネイティブスピーカーの先生と話す機会も沢山あり、英語を使ってコミュニケーションをとる楽しさを知りました。大学は文学部英文学科に進み、そこで初めてアカデミックな英語を勉強しましたね。主に日本語と英語の構造の違いを研究し、卒論を英語で書きました。大学3回生の夏休みには、大学の姉妹校のカナダのトロント大学に短期留学する機会があり、世界の大きさを実感したのを覚えています。卒業後は、流通会社『イタリアーノ』に就職。外国人客が多い六甲アイランド店に配属となりました。『イタリアーノ』は神戸エリアにあるたくさんの輸入商品を扱うスーパーで、私は外国人の方々の接客を担当していたので、仕事がとても楽しくて。それに上司や同僚にも恵まれて、充実した日々を送っていました。でも、この仕事を続けられない事態が起こったのです。それは、阪神・淡路大震災でした。私の住んでいた場所が被災のひどい地域で、震災後、お店に行ける状況ではなくって。震災の前夜、たまたま体の調子が悪く、コタツに横になっているうちに眠ってしまったお陰で、命が助かったと思うくらい、部屋の中も無茶苦茶でした。その後、友人と一緒に避難生活を送り、4日間で食べたものは、見知らぬ人からいただいたおにぎり半分とお水だけ。余震も続き、怖くて睡眠も十分とれずにいて。非難生活4日目に、避難場所で火災が起きた時には、一人だったら逃げる気力もない状態でした。そして、どうにか逃げ、その後は周りの方々に助けられながら避難生活を送り、いったん淡路島の実家に戻ることにしたのです。

 

ニュージーランドで教育の道へ

 しばらくして会社に復帰したのですが、震災の影響で仕事内容が変わってしまうことから退職する決心をしました。またその頃、震災の恐怖から夜眠れない日々を送っていて、心身ともに疲れきっていたのです。それで、地震のニュースが届かない遠い所に行きたいと思い、NZに来ることにしたのです。渡航前に、ボランティア・ワークビザを取得し、まずNZの小学校でアシスタントとして働き、それから高校で日本語教師のアシスタントをすることになりました。数ヶ月が経った頃、私がメインで日本語を教える機会があって。授業後に先生に教え方のアドバイスを受けました。その時、「学生はあなたのことを先生だと思っているのよ」と言われ、ハッとして。もっと上手く教えられるようになりたいって思ったのです。その高校では、日本語以外の教科も教える機会を与えていただき、私の教育への関心が高まって行きました。そして、周りの先生方の「さとみなら、NZでいい先生になれるよ。先生になる勉強をしてみたら」という言葉に背中を押され、1997年にオークランド大学教育学部の前身のオークランド・カレッジ・オブ・エデュケーションで日本語教師になるための勉強を本格的に始めたのです。その時には10年後の今、ここにまた居るとは思ってもみませんでしたね。
カレッジ卒業後、オークランド大学で日本語講師として働くことになりました。働いているうちに、同じ内容を同じように教えていても、学生の日本語の習得に差がでることに気付き、結果が思うように出せずにいる学生を助けてあげるにはどうすればよいのだろう?と思い、教え方を勉強することにしたのです。それで1999年から、仕事を続けながら、オークランド大学の応用言語研究学部修士課程で第二言語習得理論の勉強を始めました。2002年には、私の修士論文をアメリカの学会で発表する機会があり、世界中のいろんな学者さん達と交流したのはこの時が初めてでした。修士課程修了後、指導教授から同学部の研究助手にならないかと誘いを受け、興味があったことから日本語講師と両立することにしたのです。研究目的は、外国語学習に関わってくる二種類の知識のレベルを測定するためのテストの開発でした。中学生ぐらいになってから外国語を学んで流暢に話せるようになるには、顕在的な知識(注1)と潜在的な知識(注2)が必要になってくるんです。英語の文法を一生懸命勉強したけど、英語が流暢に話せないという方も多いかと思いますが、流暢に話すには、高いレベルの潜在的な知識も必要なんです。
その学部で働いていた頃、博士課程への進学を勧められ迷っていました。そんな時、心理学者の友人が進学を強く勧めてくれたり、またちょうど『テストのタイプによって、ティーチングとラーニングの質も変わる』という論文を読み、語学教育におけるこのテーマで勉強がしたいと思い、応用言語研究学部にも籍を置きながら、この研究が盛んな教育学部の博士課程に進学を決めました。

教育者としてNZへ恩返し

  NZでは、2002年に新教育アセスメントシステムNCEAが導入されました。ここ数十年間、世界の先進国の間で、アセスメントを変えることによって教育改革を行う動きが出て来ています。狙いは「私はこれができる」と言える人材を育成すること。現在、日本とドイツは、この流れに乗っていないのですが、おそらく比較的安定した経済大国なので、現状維持に抵抗がなく、世界で通用する人材育成に危機感がないからではないかと言われています。NZも以前は日本と同じような他の学生と比較するテスト方式でしたが、NCEAは、他の学生の点数に左右されることなく、各自の成績があらかじめ設定された基準に基づいて評価されるというテスト方式です。ただ、NCEAは、導入されたばかりで研究結果が少ないことから、NCEAについて、いろんな意見が飛び交っていて。私は、実際にNCEAがどのように先生や生徒に影響しているかを調べて、今後の改善に結びつける研究を行っています。教育改革の研究では、テストがティーチングとラーニングに及ぼす影響は、先生や生徒がそのテストをどのように思っているかというフィルターを通して変わってくると考えられています。簡単に言えば、良いテストでも先生と生徒が良いと思わなければ、良い影響が与えられないというような。最近私が行った、高校日本語教師と日本語を勉強している高校生を対象にした『NCEAにおける見解』の研究の結果では、モチベーションや達成感などという外部の力では変えることが難しい心理的な要素にポジティブな影響があり、仕事量が増えたなどというシステムを少し変えると改善できる要素にネガティブな影響があるという結果がでています。ですので、NCEAはまだ改善すべき点は多いにしても、改善が可能ではないかと考えられています。
 私を指導してくださっている教授たちは、NZだけではなく世界でも教育分野でとても権威のある方々で、よい教育者になりたい私は、彼らのような方々に囲まれていることを光栄に思っています。彼らの教育者としての素晴らしさを肌で感じることも多く、私が研究者には向かないのではないかと悩んでいた時、「私たちも論文発表の時に、他の学者の方が自分よりよく知っているのではないかと思うことがよくあるんだよ」って。彼らのような方々がこのように謙虚であることに感銘を受け、その言葉で救われたのを覚えています。
 また、週に一度、大学で教育心理学を教えていますが、学生はとても勉強熱心ですね。この科目での狙いは、教師や親がいかに若い世代を育てるお手伝いができるかということを学ぶこと。教育心理学が提案できるのは、研究結果に基づいた傾向性なのですが、学生と議論していて、学ぶことも多いですね。
 私はこれまで一段ずつステップアップをして来ましたが、NZに来た頃は、心身ともにとても参っていました。そんな私を元気づけてくれたのがNZでした。NZでできた友達に応援してもらったり、経済的にもSasakawa Postgraduate Research Scholarshipという奨学金で支援していただいたり。多くの意味で、感謝の気持ちでいっぱいです。ですから恩返しとして、語学教育を含む教育の分野で専門家としてNZに貢献することが私の夢なのです。

 
(注1)顕在的な知識とは、意識的に学習、分析して説明するのに必要な知識(例:文法)
(注2)潜在的な知識とは、文法を意識せずに感覚的に習得した知識。(例:母国語における知識)

 

オークランド大学 教育心理学講師 & 博士課程研究生/ PhD Candidate Educational Psychology & Applied Linguistics University of Auckland:水谷 公美さんと連絡を取りたい、勉強したい、体験したい、資格を取りたい、この分野で仕事をしたいと言う方はイーキューブ留学セクションまで、お問い合わせ下さい。

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