イギー・ポップとKiwiミュージシャンたちの共演が大きな話題となったOrconのCMで、ピョンピョン飛びはねながら演奏していたキュートな女の子が、和田美帆さん。ワールドツアー直前の出演となった「Japan Night」の会場で、ハッピーパワーの原動力となる彼女の強さと情熱についてうかがってきました。
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価値観を変えたキューバでの日々








『フルート奏者になってオーケストラで演奏したい』という夢が叶ってマルタの交響楽団に入ってみたら、何かが違うと思うようになりました。学生時代のオケは和気あいあいで楽しかったのに、仕事になってしまうとみんなで協力して音を作っていくという雰囲気ではなかったんですよね。そのままでは自分の音楽が消えてしまうような気がしてロンドンに戻り、セッション・ミュージシャンとして活動していた時に偶然キューバ音楽と出会ってキューバに渡りました。
キューバではその日のご飯も満足に食べられないのに、お腹が空いていても疲れていても音楽さえあれば幸せ!という人たちにたくさん出会いました。私が育ったクラシックの世界には裕福な人が多く、学生時代から高価な楽器を持っている友人も珍しくなかったのに、キューバではチェロの弦が切れても直すお金すらなくて、弦を手で引っ張りながら弾いている人も見ました。その時、弦が直せなくたってホントに弾きたかったら弾くんだ!というシンプルな姿にハッとしたんですよね。小さいことでイライラしたり焦ったりするのは贅沢なことで、本当は演奏できるだけで幸せなんだということにも気づいたし、1回1回のコンサートの大切さをあらためて感じるようになりました。それまで持っていた自分の価値観が大きく変わったのが、キューバでの経験だと思います。
本物のハッピーは淋しさの先にある
ニュージーランドに帰国後は自分のバンドを結成し、「Postcards to your Bed」というアルバムを発表しました。絵あり写真ありメッセージあり、というポストカードの束みたいに、パシフィックっぽいものもあればジャズやスカ、パンクもあり、歌詞も日本語だったり英語だったりと様々なタイプの曲を集めてあります。バンドを持つことで、オーケストラやセッションのように他人のものではなく、自分の音楽が自由にできるようになりました。曲作りの原点になっているのはJ-popなんですが、生まれ育った日本やニュージーランド、住んでいたイギリスやマルタ、キューバなど、いろんなところからのエキスをもらってできあがったのが、私の音楽。どのジャンルにも当てはまらないので「Japanese Punk Jazz」と名付けました。
今までいろんな国で演奏してきましたが、いつもどうしたらお客さんにもっとハッピーになってもらえるかを考えています。みんなが踊ってくれたら、もちろん楽しいですが、座ってる人が笑顔になっているのを見るだけでもすごくうれしいです。誰だって生きていれば辛いことも淋しいこともたくさんあるし、毎日ハッピーでいられるわけじゃないですよね。正直言って、頑張って進んでいくよりもネガティブな気持ちのままじっとしているほうが楽だったりもする。でもそういう気持ちをわかった上で、それでも元気になろうよ!というメッセージを送りたいです。本当のハッピーって、そういう辛さや淋しさの先にあるものじゃないでしょうか。そんな意味も込めて、アルバムには「Song for Okinawa」という曲を入れました。宮崎で育った私にとって、沖縄はとても近くに感じている場所。いろんな問題があるけど、みんなで協力していい方向に持っていけたらいいな・・・ということをポリティカルではない方法で伝えたくて作った曲です。
日本人としての誇りを持っていたい
日本人であることをいつも意識しているわけではありませんが、自分が誰なのかをしっかり持っていないと、ステージに立った時に何も伝えることができないと思うので、日本とはいつもつながっていたいです。キューバの音楽や英語の歌ばかりだと日本から離れてしまうような気がするので、日本語の歌詞にもこだわりたいし、アルバムにも大好きな日本の唱歌「ふるさと」を収録しました。6月に行われた日本人プレイヤーによる初のライブ、『Japan Night』に参加したのも、他のアジア人に比べて日本人のコミュニティはちょっと淋しいというか、集まれる場所みたいなものがないなあと思っていたからです。一緒にお祭りをして日本人の音楽をみんなに知ってもらうにとてもいい機会だと思います。
ホッとする音楽を目指して世界へ
7月からはワールドツアーに出かけます。今回はプロモーションが中心なのですが、来てくださいという人がいる限りどこへでも行って、とにかくたくさんの人たちに聞いてもらいたいです。これからは聞いている人がホッとするような、音のキレイな曲をつくりたいですね。目指す音楽はズバリ、お母さんのご飯。(笑) 家にお客さんを呼んだ時、自分のご飯を美味しいって言ってくれたらうれしいじゃないですか。手の込んだ高級料理じゃなくて、お母さんが作った家庭料理が一番ホッとして美味しかったりする。特別すごいことじゃなくていいので、そんな音楽をやっていきたいなあと思っています。