Vol. 187 特集

LGBTを考える -「LGBT世界一周プロジェクト」 藤原直さんインタビュー


メインイメージ

 女性として生まれ、現在は男性として日本で暮らす藤原直さん。かつてニュージーランドに滞在したことをきっかけに、「自分らしい生き方」を考えるようになったと言います。LGBTの先進国を回り先進事例を学ぶ世界一周の旅でニュージーランドを訪れた藤原さんにお話を伺いました。

藤原 直(ふじわら なお)さん

 1978年、大阪府出身。ライフビジョンコーチ、ラジオパーソナリティー。女性として生まれ育ち、日本の女子校・女子短期大学を卒業後保育士として勤務。2003年にワーキングホリデーでニュージーランドを訪れ、クライストチャーチ、クイーンズタウンで5年間過ごす。帰国後、35歳の時に性別適合手術を受け、戸籍上の性別も男性に変え、元の「直美」から改名。ファイナンシャルプランナーとして性同一性障害の人の保険加入の拡大に尽力し、約5年勤務した後、ライフビジョンコーチとして独立。クラウドファンディングを利用し、世界のLGBT先進国の情報を日本に発信する「LGBT世界一周プロジェクト」で2017年6月から8月にかけて世界21カ国27都市を回る旅に出る。日本国内でLGBTについての情報発信や講演を行っている。
▼公式サイト
http://life-journey.biz/
▼Facebook
https://www.facebook.com/nao.fujiwara1/

ニュージーランドで知った「自分らしい生き方」

 私は大阪の枚方市で、3人きょうだいの長女として生まれ育ちました。物心ついたときから自分の性別に違和感があって、幼稚園の時は男子トイレに行って「立ちション」を試みたり、小学校の入学式に母が用意したフリル付きの靴下が嫌で、前の晩に親が寝てからこっそりそのフリルを切ったりと、いろいろなアピールをしていました。
 幼稚園や学校でも、無意識に目で追ってしまうのは女の子でしたが、好きな人ができても否定されるのが怖くて告白はできませんでした。変な目で見られるんじゃないか、いじめられるんじゃないかと悩み、「朝起きたら男の子の体になっていますように」と思って眠るけど、そんな映画みたいなことは起きず。1人で泣くことも多くありました。
 高校は女子校を選んだのは、保育科のある女子短期大学に進むためでした。子どもが好きだったけど自分が赤ちゃんを産むことはないと思っていたので、保育士になり、5年間働きました。その後ワーキングホリデーでニュージーランドに来て、計5年間過ごしました。この時、初めて同性のカップルを見たんです。クライストチャーチの公園で、日曜日の昼間に男性同士のカップルが仲良く手をつないで歩いていて。衝撃でした。国や教育が違うだけで、自分の思っている生き方ができる場所があるんだと知ったんです。

女性から男性へ 認めてもらえる心強さ

 私は今38歳で、35歳の時に性別適合手術を受け、戸籍上の性別も男性に変えました。元の名前は「直美」と言います。クイーンズタウンで働いている時に、日本人の女性と知り合い、お付き合いを始め、結婚を考えていました。カミングアウトをした時、彼女は「直ちゃんは直ちゃんだから、いいんじゃないの」と言ってくれたんです。ずっと自分ですらちゃんと認められなかった自分の存在を、誰か1人でも認めてくれたら、こんなにも世界を明るいものに感じられるんだと知りました。
 日本の法律で、結婚するには性別適合手術を受ける必要があります。治療は3段階あり、初診はカウンセリングです。複数の医師の判定で性同一性障害の診断を受けます。次にホルモン療法を始めます。私の場合、男性ホルモンを打ち始めて3カ月くらいで生理が止まり、喉仏らしいものが出てきて、首周りも太くなり、ヒゲも生えてきました。そして、1年以上経ってから性別適合手術を受けます。私はタイで胸と子宮・卵巣を取る手術をしました。費用は150万円くらい。保険は使えず、全額実費です。

187feature00.jpg両親へカミングアウト、親が望む普遍の幸せ

 母にはクイーンズタウンにいた時にカミングアウトをしました。別件で電話をした際、「今だったら話せるかも」と思い、子どもの時の話から、女性と結婚したいこと、結婚するために男性の体に変えたいことを打ち明けました。母は女の子らしいものが好きで、そのことでよく小さい時から衝突していましたが、電話口の向こうの母の反応は冷静で「そうやないかと思ってたわ」と受け止めてくれました。母はそれから図書館に行ってLGBTの本を読んで勉強したり、ニュースを見たりして理解しようと努力してくれたそうです。
 父には手術を受ける前に話しました。いきなり「性同一性障害」と言ってもよく分からないと思ったので、会う約束をした日の1週間前に手紙を出しました。小さい時のことから治療の流れ、仕事や貯金のことも含め今後の自分の人生計画を5年先くらいまで立て、私は幸せだということ、産んでもらったことを感謝していることを便箋9枚に書きました。
 約束の日、父からは次のように言われました。「お父さんが言いたいことは2つだけです。1つは、社会の偏見や差別がある中で男性として就職してちゃんと食べていけるのか、それが心配です。もう1つは、お父さんもお母さんも先にいなくなります。死んだら何もしてあげられないから一緒にいてくれるパートナーを見つけて、幸せに生きてほしい」
 正直、突っぱねられたり、もっとすごいことを言われるんじゃないかと思っていました。でも、親が求めていたのは、ちゃんと仕事をして生きていくことと、人生のパートナーを見つけて幸せになることという、LGBTとかに関わらず、全ての子どもに望むことでした。

「全ての経験を価値に」面接での社長の言葉

 男性として仕事を始めるにあたり、就職活動は大変でした。当時はまだ名前が「直美」でしたし、学歴は女子校・女子短大出身。日本では履歴書に必ず写真を貼るので、書類選考でかなり落とされました。でも、後に約5年勤めた総合保険代理店の社長からは思いもよらない言葉が返ってきたんです。
 「性同一性障害で良かったことと大変だったことはある?」と聞かれ、良かったことは、いろいろあったけどこうして体を変えて自分の希望の性で働こうとできていること、ホルモン療法や手術は体への負担が大きく、寿命が短くなるかもしれないことはデメリットだと思うことを伝えました。社長は「きっといろんな経験をしているから君は人の痛みが分かるし、それはとても素晴らしいことだと思います。いろんな経験をしたと思うけど、それも全て価値としてこれからの生き方に生かしていけるね」と言ってくれました。
 ファイナンシャルプランナーとして働き始め、保険に入りにくかった性同一性障害の人も保険に入れるよう、活動しました。当初、2社3商品しかなかったものが、10社12商品まで増やすことができ、その活動を評価されメディアで取り上げられたことをきっかけに、保険だけでなく多くの相談が寄せられるようになりました。何かできないかと考え、昨年ライフビジョンコーチとして独立して活動を始めました。

世界一周プロジェクト「世界から日本を見る」

 ニュージーランドは2013年から同性婚が認められていますが、日本は一部の自治体でパートナーシップ条例が制定されているだけで、同性同士の結婚は法的に認められていません。国や地域によっては同性愛者は禁固刑を受けたり、死刑になる国もあります。
 日本もニュージーランドも同じ島国ですが、LGBTについての理解度は大きく違います。ニュージーランドは移民が多い国で、人と違うことが当たり前という前提のもとで社会が成り立っていますが、対して日本は日本に住む9割近くが日本人。「みんなと同じ」ということに安心し、周りから変に思われないように意識する風潮があるし、自分と違うものはなんだか怖いとか、嫌だから排除しようとする傾向がある。だから日本にいるLGBTの人たちはずっと自分が我慢をすればいいって思って生きてきたんだと思います。
 今、LGBTの話題が世界のあちこちで取り上げられ、日本でも少しずつオープンになってきています。日本でLGBTの活動をしていく上で、日本の中から日本を見てもあまり変化はないと思い、今回「世界から日本を見る」ことをテーマにクラウドファンディングで資金を募り、「LGBT世界一周プロジェクト」を実行しました。

教育が人をつくる これからの社会でできること

 プロジェクトでは、LGBTに対しての対応が進んでいる21カ国27都市を回って、先進事例を学んでいます。例えばスウェーデンのデパートで見たトイレは、出入り口が2つあるけど、中は繋がっていて男女の区別がなく、全て個室になっていました。こういうトイレだとトランスジェンダーの人も入りやすいです。
 また、スウェーデンでは年に一度「プライド・パレード」というLGBTのパレードが行われ、その時期になるとバスや電車、店先などにレインボーフラッグが掲げられます。あるお母さんは4歳の子どもに「お母さん、この旗って、男の人同士でも女の人同士でも、好きな人と結婚していいよっていうマークなんだよ」と言われとても驚いたそうです。保育園や学校でも当たり前のように教えている。この環境が人をつくる。教育ってとても大事だと思いました。
 男は青で女はピンク、ランドセルも男は黒で女は赤みたいな男女分けが当たり前になっている社会では、子どももそれを当たり前として育ってしまう。まずは周りの大人がLGBTをどう理解して子どもたちに伝えていくか、これからの日本ではそれが大切です。約2カ月間の旅で私が見聞きしてきたものをもとにこれからの日本でどんなことができるのかを、インターネットや講演で伝えていきたいと思っています。
 最後に、この世界にはいろんな生き方があるし、いろんなセクシャリティーがあります。共通点もあるけど、違っている部分がほとんどです。それを認めることで自分自身も生きやすい生き方につながっていくと思います。まずは知って、できることから始めてもらえれば嬉しいです。

 

▼LGBTを考える - LGBTに関する基礎知識

http://www.ecube.co.nz/content/1857

▼LGBTを考える - 「お互い『女性だから』じゃなく、『1人の人間』として好きになったんです」

http://www.ecube.co.nz/content/1858

カテゴリ:特集
各種法律や移民局の規定等は改定されている場合があります。詳しくはお問い合わせください。

お問い合わせはこちら