Vol. 187 Career Interview

ニュージーランドで就職:ソーシャルワーカー 宮木奈央さん

給料の未払いを泣き寝入り-自らの経験がきっかけで志した道。 「日本語で安心して相談できる」 そんなネットワークを作りたいです


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宮木奈央(みやき なお)さん

 富山県出身。2007年にニュージーランドへ移住。勤めていたネイルサロンで賃金の未払いに遭うも、どこにも相談できなかった経験から「日本人を日本語でサポートできるように」とソーシャルワーカーを志す。Unitec Institute of TechnologyのBachelor of Social Practiceを卒業し、2017年2月からアジア人をサポートを行っている非営利団体「Chinese New Settlers Service Trust(CNSST)」に勤務中。

苦い経験からソーシャルワーカーを目指す

 ニュージーランドには2007年に来て、初めはネイルサロンで働いていたんですが、給料をずっと払ってもらえなかったんです。「トレーニング」と言われ、契約書もなく、「給料はそのうち払う」と口約束だけで働き始めましたが、3、4カ月経っても支払われませんでした。IRD(Inland Revenue Department)の存在は知っていても、英語に自信がなくて電話することもできず、他にどこに相談できるのかも分かりませんでした。
 結局給料をもらえないまま仕事を辞めましたが、この時「日本語でどこかに相談できればいいのに」と強く思いました。当時の私のように、何かトラブルがあっても英語に自信がなくて泣き寝入りしている人は多いと思います。「困っている日本人のために、自分が何かしたい」と考え、ソーシャルワーカーを目指すことにしました。

大学へ、苦手な英語を真面目さでカバー

 まずはUnitec Institute of TechnologyのDiploma in Englishというコースで英語の勉強からスタートしました。修了後、すぐに学部に進むにはまだ英語に自信がなかったので、Certificate in Community SkillsというNZQAのLevel 4のコースで勉強し、それから学部に進みました。
 Bachelor of Social Practiceのコースは当時は3年制で、今は4年制になっています。心理学やコミュニケーションなどさまざまなことを勉強しました。ニュージーランドの大学ではマオリの歴史や言葉を勉強する授業があって、「マラエ」というマオリの集会所での宿泊学習もありました。特にソーシャルワーカーの学部ではこの授業は重要視されています。
 勉強はやはり大変で、Unitecは特に「Practical」という実践形式の授業が多く、ディベートやグループワークの時間が多くありました。学生の中で日本人は私1人だけで心細かったですし、英語が下手だったのでグループワークの時にクラスメートが私と同じグループになりたくないと思っているのではと感じて、初めは辛かったです。でも、一度一緒になると期限も守るし、言われたこともきちんとやるという真面目さを分かってもらえて「また同じグループになりたい」と言ってもらえました。

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実習、ボランティアで働く準備を積む

ソーシャルワーカーの学部では、実習が2回あります。政府の機関や民間の機関など実習先はさまざまで、希望を出すと、大学が実習先をアレンジしてくれます。私はアジア人のサポートをしている機関で実習をしました。
 1回の実習は約3カ月で、そこで働いている人や、仕事で関わる他の機関の人から仕事の話を聞いて、実際に働くためのアイデアを得ます。また、ニュージーランドの履歴書(CV)には、必ず推薦者や保証者になる「レフェリー」が必要で、これは友達などではなく基本的には前の職場の人に頼むことが多く、レフェリーがいないと仕事を探のが難しくなります。なので実習先の上司にお願いできるよう、実習が終わった後もボランティアなどをして関係をつないでおくようにしました。
 大学にはキャリアセンターというところがあって、求人情報をもらえたり、CVの添削や面接のアドバイスをしてもらえます。履歴書一つにしてもニュージーランドと日本では違っていて、日本では持っている資格をたくさん書きますが、ニュージーランドでは「ターゲットCV」と言われ、応募する仕事に関係のある資格やワークショップの参加歴などを書きます。また、私は在学中赤十字社でボランティアをしていて、この経験と成績が良かったことから給付型の奨学金をもらうことができました。奨学金をもらって勉強していたことも就職活動の時のアピール材料になります。

ソーシャルワーカーとして仕事を開始

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 アジア人のサポートをしている機関に絞って応募していたので、就職活動は狭き門でした。学校の友達から「日本人のソーシャルワーカーのポジションがある」と聞いて応募し、面接を経て採用されたのが今の職場です。こうした友達同士の情報交換も大事だと思います。
 私は今、Chinese New Settlers Service Trust(CNSST)という非営利団体でコントラクト(契約)で働いています。相談は中国人からのものが中心ですが、「Asian Community Services Trust」という部門ではその他のアジア出身の人からの相談を受け付けていて、私は主に日本人のサポートをしています。
 最近では「Healthy Baby Health Future」という、さまざまな国から来ているお母さんたちに栄養や運動など健康について指導する政府のプロジェクトのワークショップをプロバイダーとして行いました。私は日本人のお母さんたちの担当だったので、日本人管理栄養士の方をゲストに呼んで、ニュージーランドでも手に入る食材で作る日本の料理についての内容を取り入れました。日本の職場とは違い、指示を出されることがあまりないので、いつも自分で計画を立てて行動しています。
 相談の中で一番多いのがドメスティックバイオレンス(DV)に関する内容です。ニュージーランドではDVの被害者が警察を呼んだ場合、警察はその後のフォローを関連する機関に要請します。被害者が日本人の場合には私の働いている機関に依頼が来ることがあり、被害者に連絡して安全かどうかを確認します。
 正直に言って、何か問題があった時に私たちソーシャルワーカーが行けばその場で全て解決するということはありません。例えばDVの場合には「セーフティープラン」といって、危険が迫った時にどう行動すればいいか、「トリガー」と呼ばれる相手が怒る要因になるものを極力避けるにはどうしたらいいかを一緒に考えます。DVをすぐになくすというのは難しくても、少しでも危険を減らすためのサポートをしています。また、緊急にシェルターが必要な場合にはシェルターのある他の機関を紹介します。

助け合えるネットワークを作りたい

 ソーシャルワーカーには基本的にはどんな質問でもすることができますが、雇用に関する問題などは私が直接何かするということはできません。雇用の相談であれば、Employment New Zealandという政府の機関に相談でき、政府機関には大概「ランゲージライン」というものがあるので、電話口で「ジャパニーズプリーズ」と言えば日本語で相談できます。相談内容に応じて必要な情報を提供することはできますし、日本語で話を聞いてもらうだけで落ち着くという人もいます。
 ニュージーランドに住む日本人は、全体で1万5千人くらいと、そんなに多くはありません。だからこそ、この仕事をする上では守秘義務が大切です。クライアントと会ったらまずは守秘義務について説明して納得してもらった上でサインをしてもらいます。万が一、その人の身に危険が迫って警察に要請された時には情報開示をしますが、それ以外に外部に情報が漏れることはありません。
 中国人や韓国人のコミュニティーに比べると、日本人のコミュニティーは小さなグループがたくさんあってもサポートをし合えるネットワークというのは少ないと思います。中国人は数が多いですし、韓国人は教会がサポート機能を持っています。私は休みの日にも積極的にいろいろな場に顔を出し、話をするようにしていて、最近、少しずつ手応えを感じるようになってきました。日本人同士でサポートし合えるネットワークの基盤を作るのがこれからの目標です。

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