Vol.5 時代を飾るキウイ ニュージーランドSnowy Peak Limited社長


「アンタッチド・ワールド(Untouched World)」が私の在任期間中に手にした最もかっこいい服だった」とコメントを残したのはクリントン前米大統領。南島クライストチャーチで始まった手編みのセーターメーカーだったスノーウィー・ピーク社は今ではニュージーランドを代表するアパレルメーカーにまで発展した。スノーウィー・ピーク社のブランドの一つであるアンタッチド・ワールドはニュージーランドの自然を感じさせながらも洗練されたデザインを取り入れ、機能の面からも優れている事が人気の秘密と言える。ニュージーランドが世界からどう見られているのか、世界はニュージーランドから何を欲しているのかなど、ニュージーランドのアイデンティティにとことんこだわった経営手法はニュージーランドでビジネスに関わる人達に一つの指針を与えてくれる。

ペリ・ドライスデール:PERI DRYSDALE<br />スノーウィー・ピーク・リミテッド社長 : Snowy Peak Limited  Chief Executive M.B.E<br /><br />クライストチャーチから車で西へ1時間ほど走ったスノーウィー・ピ-ク生まれ。会社の名前は出身地から取って名づけた。クライストチャーチ病院で正看護婦として働いていた経験もある。毎日の睡眠時間はたった3~4時間。毎日深夜まで仕事をこなし、朝は集中できるという理由と時差のある国々と連絡を取らねばならないため、4時に起きて仕事を始める。1993年に製造および輸出貢献に対してMBE(Member of the British Empire)をエリザベス女王より贈られる。 www.untouchedworld.com

クリントン前米大統領が着た黒いウールのポロシャツ

アンタッチド・ワールドが広く名前を知られるようになったのは1999年9月のオークランドで開かれた先進国首脳会議(APEC)でクリントン前米大統領にお願いした一件から。

APECでは毎回開催国の民俗衣装やその国にかかわりのある衣類を各首脳にプレゼントして着てもらう事になっており、スノーウィー・ピーク社がそれを供給する事になりました。私はオークランドのタウンホールで開かれた晩餐会で前大統領と接する機会があり、翌日のオークランド博物館で予定されている会議でアンタッチド・ワールドの黒のポロシャツを着てもらい、「ほんの少しだけ」ジャケットのジッパーを降ろして欲しいとお願いしました。
そして当日。私はもう天にも登る思いになりました。前大統領はジッパーを降ろすどころではなく、ジャケットを脱いで肩にかけ、ポロシャツをあらわにして、世界中のテレビカメラが構えている前を歩いて博物館に入って行ってくれました。当日は雨も降り、風も強かったのですが、前大統領は私のことを覚えていてくれたのです。この大サービスには感謝感激ものでした。
この様子はニュージーランド・ヘラルド紙でも大きく写真入りで紹介してくれました。「Kiwi cheek brings huge reward」(ニュージーランドの押しの強さがとてつもない利益をもたらした)と見出しもあったくらいです。

手編みの子供用セーターが始まり
今を時めくアンタッチド・ワールドは、元はニュージーランドのどこにでもある小さなセーターメーカーから始まった。

私は1981年に手編みの子供用セーターを製造・販売するスノーウィー・ピーク社を設立しました。84年までには500人の編み手と契約し、男性・女性用のセーターも作るようになりました。しかしながら、人数が増えていくに従って、品質管理の悩みは大きくなるばかりでした。出来上がってきたセーターの二つに一つは私の望んでいるレベルに達していなかったのです。そこで、日本の岡山県からコンピューター制御の編み機を輸入してセーターを製造するようになりました。この機械のおかげで、品質も統一され、スノーウィー・ピークのセーターはリゾートで着るセーターとして観光客が買ってくれるようになりました。88年になるとオーストラリア、カナダ、アメリカ、ヨーロッパ、日本に輸出を始めました。
92年にニュージーランド・ウール公社からメリノウールにポッサムの柔毛をブレンドした新素材の開発に協力して欲しいと要請がありました。

ポッサムの毛を混ぜたウールの新素材「メリノミンク」
ポッサムの柔毛はウールと勝手が違った。研究には4年の歳月を必要としたが、世界で始めて商品化に成功した。

ポッサムはもともとオーストラリアから毛皮の貿易のためニュージーランドに持ち込まれた草食動物です。世界中でもニュージーランドとオーストラリアにしかいません。北米にいる肉食のオポッサムと良く間違われるのですが、犬と猫ほど違う動物です。今ニュージーランドでは7000万頭のポッサムが毎晩2万ヘクタールの原生林を荒らしていると言われています。もしこれを放っておくと、ニュージーランドの自然生態系を破壊する事になるのです。
ポッサムの柔毛はウールに比べて短く、滑りやすい性質があり、また、年齢や性別によりその品質もまちまちなため、メリノウールとブレンドした際に品質を統一できないことが一番の問題でした。結局4年後、96年に満足行く品質の素材が安定供給できる事になり、「メリノミンク」と命名してスノーウィー・ピーク社が世界で最初に商品化に成功しました。過去200年の間でウールと混ぜ、編み物用糸に使われた動物の毛はポッサムの柔毛が最初です。
「メリノミンク」は滑りやすいポッサムの柔毛の特徴が活きて、毛玉を作る事がありません。また、軽くてソフトな風合いで羽毛を着ているような感じがするほどです。

クリントン大統領のみならず、故ダイアナ妃も起用
ポッサムの柔毛を使って「メリノミンク」を開発していると、思わぬところから故ダイアナ妃の名前が挙がって来た

ポッサムはもともといい毛皮になる動物と言われていましたので、その柔毛も素材として世界中が注目していました。我が社がちょうど「メリノミンク」を商品化した頃、ポッサムの品質管理とその製品の品質向上をはかる国際ポッサム協会(International Possum Association-IPA)が組織されました。日本の紡績会社も加盟し、委員長に故ダイアナ妃が就任するなど国際的な組織となりました。私は故ダイアナ妃の就任記念として、また、話題作りもありましたので、我が社の「メリノミンク」を使ってイギリスのバーバリー社に故王妃のサイズに合わせてセーターとコートを作ってもらい、プレゼントしようと思いました。そして、私はIPAを日本で紹介するため、メディア用のニュースリリースを用意して日本に行きました。準備を全て整えてプレス・コンファレンスの日を待つ間にあの悲惨な事故が起こってしまいました。結局セーターとコートは故王妃に渡す事はできず、未だに私の手もとにあります。
それらはウェリントンの国立博物館「テ・パパ」に寄贈したいと思っています。

「人間と自然が出会う」がコンセプト
アンタッチド・ワールドはニュージーランドのメリノウールをベースにした新素材を使って、洗練されたデザインで最高の品質の製品を目指す

「メリノミンク」を商品化してから約2年後、98年にアンタッチド・ワールドブランドを立ち上げました。一言で言うと「人間が作り出した世界最先端のテクノロジー&デザインとエネルギーを秘めた手付かずで新鮮な自然が融合するニュージーランドのライフスタイル」ブランドでしょう。
自然には人間を快適にするノウハウが詰まっているんです。例えば、羊をよく観察してみて下さい。一日のうちでも暑くなったり、寒くなったりするニュージーランドの典型的な気候のなかで羊一匹一匹が温度管理を行い快適に過ごしていますね。この自然のノウハウを人間が利用しない手はありません。自然を見る事で人間の快適な生活の仕方への答えがわかってきます。自然のエネルギーがアンタッチド・ワールドのデザインヒントになっているのです。
アンタッチド・ワールドでは「メリノミンク」以外にも新素材を開発しました。「マウンテンシルク」は100%メリノウールに加工を施してシルクのような感触のある、強く、長持ちする素材です。保温性が高く、即乾性もあり、合成繊維やコットンのように臭いを吸収しません。もちろん洗濯機で洗えるのですが、臭いを発散してしまいますので、あまり洗う必要もないんです。私は3日間着たままの時もありました。クリントン前米大統領に着てもらったポロシャツも「マウンテンシルク」でした。
さらに、メリノウール、ポッサム、カシミアをブレンドした軽くて非常にソフトな手触りの「カッサム」や合成繊維ではないメリノウールの「ナチュラル・フリース」、メリノウールに5%の化学繊維をブレンドした「ボディシルク」も開発しています。

生活のすべてをカバーするアンタッチド・ワールド
アパレル製品ばかりではなく、生活のすべてのシーンを演出するトータルブランドを目指す

クライストチャーチの本店にはブティックの他、カフェやオーガニック素材を使ったレストランもオープンしています。その他自然化粧品、オーガニックワイン、地元のアーティスト製作の手作りのジュエリーなども販売しています。人間の生き方は自然が一番良く知っているというコンセプトを実感できると思います。
さらにアンタッチド・ワールドの利益の5%でアンタッチド・ワールド基金を作り、自然環境の保護に役立てています。そしてその手付かずの自然を空から実感する、世界でも珍しいアンタッチド・ワールドだからできる生の自然を体験するツアーも行っています。深い森、連なった木々、誰もいない黄金のビーチ、コバルトブルーの山あいの湖、絶える事のない氷河などまだ手付かずの自然環境が残る地球上の場所-ニュージーランドだからできることなのです。

カテゴリ:ファッション
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