Vol.11 時代を飾るキウイ アメリカズカップ・チームニュージーランド


アメリカズ・カップ2003をイベントとして捕らえてみると、2つの大会から成り立っている。ひとつはチーム・ニュージーランドに挑戦する一つのシンジケート(チーム)を決める10月1日から始まった挑戦艇選抜シリーズのルイ・ヴィトン カップ。もう一つはその挑戦艇がチーム・ニュージーランドとレースを行なう2月15日から始まるアメリカズ・カップ。この2つの大きな大会を含んだイベントの総称であるアメリカズ・カップ2003は今まで開かれたアメリカズ・カップの中で最大規模といわれ、ニュージーランドだけではなく、世界中から注目を集めている。

そんなイベントとしてのアメリカズ・カップ2003をスポンサー探しや資金集め、2大会の運営、広報活動、開会・閉会式の実施などさまざまな面から統括しているニュージーランド人がいる。前回のアメリカズ・カップ2000でも同じポジションを切り盛りした実績を買われ、前回以上に今大会を盛り上げるため、スポーツマーケティングのノウハウとビジネス界で得た経験をフル活用している。

アメリカズカップ・チームニュージーランド

トニー・トーマス:Tony Thomas
エグゼクティブ・ダイレクタ-  アメリカズ・カップ2003&チーム・ニュージーランド : Executive Director of Americas Cup 2003 & Team New Zealand

1951年ウエリントン生まれ。 ヴィクトリア大学でマーケティングを専攻。海外でメーカーのスポーツマーケティング部門や広告代理店に勤務。以来、スポーツイベントに絡んだ仕事に従事し、アメリカズ・カップ2000のエグゼクティブ・ダイレクタ-を経て、今回も前職を継続。自分でヨットを所有しているが、もともとはヨット乗りではないのでヨットレースはしない主義。得意なのはスキー。

いつもスポーツイベントに関わる
アメリカズ・カップに関わるようになったのはスポーツマーケティングの経験があったから。

大学でマーケティングを専攻し、卒業してすぐにイングランドに行きました。たばこ会社のフィッリプモリスに就職し、ヨーロッパ地区のプロモーション部長になりました。会社のブランドであるマルボロ、フィリップモリス、メリットやソフトドリンクのセブン・アップがF1(フォーミュラー・ワン)、F2、WRC(世界ラリー選手権)、ワールドカップ・スキーなどの大きなスポーツイベントでスポンサーになり、大々的にプロモーションを行ないました。特にF1はちょうど世界的に人気の出てくる時期で、イギリスのドライバー、ジェームス・ハントが70年代後半の日本グランプリで走った時には彼のスポンサーとして、私も日本でプロモーションを行ないました。この頃にはスポーツイベントへの興味が湧いて来て、次々と新しいアイデアやスポーツマーケティングのおもしろさを実感していました。
この仕事を9年やった後、オーストラリアのメルボルンに渡りました。そこでは広告代理店に3年間勤務しました。そして、ニュージーランドに戻って来て、再び広告代理店に勤務し、ビール会社のマーケティングを行なっていました。そして、広告代理店勤務中に1993~94年に開かれた世界一周のヨットレース「ホイットブレッド」に参加する「TOKIO」チームの総責任者として、18ヶ月間の出向も経験しました。「TOKIO」はニュージーランドのセイラー、クリス・ディクソンが艇長を勤めました。これが初めて私が関わったヨットイベントでしたが、フィッリプモリスで担当したスポーツイベントでの運営と、資金集めなど経験がそのまま活きました。

二つの顔
今回はアメリカズ・カップ2003とチーム・ニュージーランド両方の組織でエグゼクティブ・ダイレクターのポジションに就く。

18ヶ月にわたる「TOKIO」への出向の後、再び古巣の広告代理店に戻りました。その直後、チーム・ニュージーランドがアメリカのサンディエゴでアメリカズ・カップを奪取しました。アメリカズ・カップがオークランドで開かれる事になるなと他人事のように思っていた矢先、サー・ピーター・ブレイクから直々に「アメリカズ・カップ2000年大会の組織委員長をやって欲しい」と頼まれました。もちろん快諾し、広告代理店は辞めました。
イベントとしてのアメリカズ・カップはアメリカズ・カップを保持しているヨットクラブが組織、運営する事になっており、そのヨットクラブはロイヤル・ニュージーランド・ヨット・スコードロンになります。つまり、アメリカズ・カップ2000のエグゼクティブ・ダイレクターであった私はロイヤル・ニュージーランド・ヨット・スコードロンに雇用されていたわけです。そして、今回アメリカズ・カップ2003では前回と同じポジションを引き継ぐ事になったわけです。仕事の内容はルイ・ヴィトン カップとアメリカズ・カップ2大会の運営、アメリカンエクスプレス・ヴァイアダクト・ハーバーの管理、2大会の広報活動、開会・閉会式の運営、もちろんスポンサー探しや資金集め、スポンサーの接待なども重要な仕事です。
さらに、今回はチーム・ニュージーランドのエグゼクティブ・ダイレクターにもなり、ブランド戦略、広報活動、スポンサー獲得など毎日朝7時から、12時間は仕事をしなければなりません。前回はチーム・ニュージーランドに関わっていませんでしたので、今回は仕事量が2倍になったようなものです。

ビジネス的なアプローチ
仕事の中で最も大変なのはスポンサー獲得。プレゼンテーションを行ない、スポンサーを納得させなければいけない。

前回アメリカズ・カップ2000のスポンサーはテレコム・ニュージーランド、コンパック、ニュージーランド航空、エリクソン、フジ・ゼロックスと5社あったのですが、今回はニュージーランド航空とフジ・ゼロックスの2社のみです。やはり、不景気や昨年のテロ事件が大きく関わっていると思います。 
また、イベント的には、チャレンジャーの数が前回と比べて一つ少ないので、寂しい大会かと思いきや、全くそんな事はありません。各チャレンジャーは資金的に十分で、なおかつ以前チーム・ニュージーランドにいたセイラーがキーメンバーになっているところも多いため、それぞれの実力が前回より確実に上がっているのでレースが拮抗し、おもしろい内容になっていると思います。スポンサーの数が少なくなってもイベントの規模やおもしろさが半減する事にはなりません。
仕事の中で一番大変なのはスポンサー獲得です。私のやり方は、ゴールを示し、スポンサーにとってどんなメリットがあるのかをプレゼンテーションをして説得します。スポンサーの接待を行なうなど、いいビジネス関係を構築していく事もいい結果を生む事になると感じています。サー・ピーター・ブレイクがスポンサーの重役会議に顔を出せば、どこも「ノー」と言えないほどのカリスマ性があると言われていましたが、私達はサー・ピーターとは違ったアプローチの仕方、つまり、ビジネスとしてのメリットを説得する方法を取りました。
例えば、チーム・ニュージーランドのスポンサーSAPはドイツのコンピューターソフトメーカーで、チーム・ニュージーランドの5つのスポンサー「ファミリー・オブ・ファイブ」の一番最後に名前を列ねました。SAPの会長はもともとヨットに関心があり、世界中のヨットの大会でチーム・ニュージーランドのクルーと一緒にセーリングをしているほどで、そのうちにチーム・ニュージーランドと関係が深くなりました。今大会はIT関連の大金持ちが代表を勤めるオラクル、ワン・ワールド、GBRなどのシンジケートがあり、もし、それらのうちの一つがルイ・ヴィトン カップを勝ち抜いて、チーム・ニュージーランドに挑戦する事になれば、SAPが名だたる世界的なIT企業を相手に社名をアピールする絶好の機会になることを説いたのです。もちろんこの成果は私一人によるものではなく、チーム・ニュージーランド全員の努力のたまものです。

アメリカズ・カップ2003におけるチーム・ニュージーランドのテーマは「LOYAL」
最近テレビで流れているチーム・ニュージーランドのCMには深い意味がある。

このCMを作るにあたり、私はマーケティングアドバイザーとして参加しました。今回のテーマとなる「LOYAL」という単語には「忠誠な」「忠実な」という意味があります。国を代表するスポーツチームが試合前に国歌を歌う時に横一列に並び、各選手は右手を左胸に当てます。そんなポーズをした人達が一列に並ぶCMです。南島最南端のインバーカーギルから始まり、ニュージーランドの海岸線を通って、オークランドにあるチーム・ニュージーランドのベースキャンプまで人の列が繋がり、最後にスキッパーのディーン・バーカーの顔のアップで終わるあのCMです。あの人の列の中には各都市の市長やスポーツ界の著名人なども含まれており、ニュージーランド国民全員がチーム・ニュージーランドを裏切る事なく、忠誠を誓って応援することを訴える事が目的です。BGMにはニュージーランドの歌手デイブ・ドビンが唄う、サー・ピーターが好きだったという「LOYAL」が流れています。このCMが考えられたのはチーム・ニュージーランドを去り、他のシンジケートで中心メンバーとなって、ニュージーランドからアメリカズ・カップを持ち去ろうとしているニュージーランド人セーラーに対して、チーム・ニュージーランドは未だに愛国心に溢れた多くのニュージーランド人に支えられていることを表現するためなのです。
このようにチーム・ニュージーランドは毎回テーマを決めてキャンペーンを行ないます。1995年、アメリカズ・カップを奪取した時には「サー・ピーターのレッドソックス」を発売して資金不足を補ったり、「This Time!」(今度こそ!)のキャッチフレーズのCMを流しました。前回2000年には「Blowing!」(風を送る!)のCMで国民全員が扇風機をかけたり、うちわで扇いだり、口で息を吹き掛けたりして、チーム・ニュージーランドに風を送ろうというものでした。
アメリカズ・カップはニュージーランド国民にとってスポーツイベントの枠を超えた、ニュージーランド人ひとり一人の期待の星なのです。ですから、チーム・ニュージーランドが再びカップを防衛すれば、わたしはまたこの仕事を喜んで引き受けると思います。 
来年2月には「Are you LOYAL?」のキャッチフレーズをいろいろな場所で見かける事が増えるでしょう。その時はチーム・ニュージーランドがチャレンジャーを迎え撃つ臨戦体制に入った時です。
みなさんにもチーム・ニュージーランドを応援する「LOYAL」であって欲しいと思います。

カテゴリ:ボート/ヨット
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