Vol.29 Career up in NZ ニュージーランドへ高校留学、今は大学研究生に


人間の心理や感情の変化が身体に与える影響や、身体の変化が心理や感情に与える変化を研究するという精神神経免疫学。「病は気から」の生物学的根拠を求める分野である。オークランド大学のHealth Psychology and Practitioner Development Unitに所属するりえさんは、同研究室はこの分野で世界のトップクラスのひとつに位置するという。医学部、心理学部、医療現場の3つの壁をいち早く取り払い、各分野のエキスパートが集まり、研究できる体制を整えたことに、その理由の1つがあるという。

ニュージーランドへ高校留学、今は大学研究生に

Rie Tamagawa
玉川 りえ
精神神経免疫学研究生 / The University of Auckland, Health Psychology and Practitioner Development Unit
東京都出身。日本で入学した高校に帰国子女や海外留学生が多くいたため、海外の生活に憧れ、高校2年生の時にクライストチャーチの高校へ留学、その後、カンタベリー大学に進み心理学と中国語を専攻する。在学中に精神神経免疫学という分野に出会い、オークランド大学院の修士課程に進む。04年の2月より博士課程に進みこの分野での研究者を目指している。

英語との出会い

ニュージーランドに来たのは17歳の時でした。日本で通っていた高校では帰国子女や外国人が多く自分も海外で生活したいと思っていたので、親を説得してクライストチャーチの高校に編入することになったのです。
通い始めた頃は授業に出ても意味がないくらいに英語が理解できませんでした。好きだった化学でさえ、先生の言うことがさっぱり聞き取れず、実験ではただ見ているだけでした。それにプラスしてホームシックにもなっていましたし、疎外感を強く感じていました。そうやって過ごしていた結果、学年末テストでの化学の結果は散々なものになってしまいました。このままでは化学は次年度に大学入試資格を取るクラスに入れないという成績でした。
私はニュージーランドで進学したいと考えていたので、化学でも大学入試資格を取るクラスに入れてもらえるように先生のところに直談判に行き、もう1年同じクラスも受けるという条件でクラスに入る許可をもらいました。そして2年目は化学の授業を2つ受けることになり、同時に英語にも真剣に取り組み始めたのです。
まずは教科書を丁寧に読んでいきました。全てを理解できるまで何度も繰り返し読み込むのです。授業中に自分の意見を発言するためには絶対に必要な作業でした。そして単語ノートも作り始めました。普通のノートに付箋をつけてそこにABCD...と書いて辞書っぽい体裁にして、教科書を読んでいてわからなかった単語や、普段の生活の中で気になった言葉を書き込んでいきました。
なにか特別な方法を取ったわけではありませんが、続けていたのが功を奏したのでしょうか、いつのまにか単語ノートは使わなくなりました。いちいち日本語を調べるよりもニュアンスやその場の状況で意味を捉えることができるようになったからです。単純に英語に慣れてきたのだと思います。

大学進学

高校卒業後はカンタベリー大学に進学して心理学と中国語を専攻しました。心理学という分野は日本にいた時から興味がありましたし、単純に心理カウンセラーという職業にも興味があり、将来の職業としての憧れもあったからです。
ここでもはやはり最初に英語で泣かされました。教科書の中に専門的な単語が多く出てくるようになったため、読むだけでも多くの時間を費やしたのです。そういった知らない単語が多いという緊張感もあり、実験の時など「この2つの写真を見てどちらの方がきれいにみえますか」という講師の簡単な説明さえも理解できないことがありました。
少し焦りを感じながら、再び教科書を読み込んでいきました。しかしそれだけでは専門分野にはついていけないので、心理学の学会の論文も読み漁り、これはいい表現だと思ったセンテンスを写経のように書き取り、自分でも使うようにしました。
心理学を専攻しているというとよく、「それじゃあ私の考えていることがわかるの?」というように言われることが多々ありましたが、占い師や、霊媒師ではないので、そういったことがわかることはありません。大学の学部でもある学問ですから、実験と統計をもとに科学的に心の動きを検証する学問です。大学での英語が慣れてくるにつれて、ますますこの実験と統計の作業がおもしろくなってきました。

精神神経免疫学

大学での最終学年のときに精神神経免疫学という分野があるのを知りました。これは心と身体の関係を研究するもので、ある人の心理や感情で変化が起きた場合、その人の身体でどのような変化が起きるか、またその逆で、身体の変化が心理や感情にどういった変化をもたらすかを研究します。精神神経免疫学がニュージーランドで設置されているのはオークランド大学だけでしたので、私はそこの大学院へ進むことにしたのです。
大学院の修士課程は12人と限られた人数のため、学生の意気込みは今までとはまったく異なるものでした。また人数が少ない分、全員に意見を求められ、毎回の講義で取り上げられる1つのトピックについてそれに関連する論文を読んでいなければ、周りにどんどん遅れをとってしまいます。私もこれまで以上に毎日、論文を読まなくてはならない状況になりました。
また、2年目では研究成果を本にします。それが審査を受け学位を取る基準となります。その論文を仕上げるのに実験データをもとに統計学のソフトで何度も色々な角度から解析を繰り返し、結果、考察を書くことが2年目の後半のピークになります。20日間以上毎日コンピューター室にこもり、24時間空いている院生用のコンピューター室の中で、連日夜中までかかりまとめた30ページぐらいのレポートを、スーパーバイザーに提出したところ「ここは僕は好きではない」と言われ、大きくページいっぱいに×をつけられて返却されたこともあります。さすがにそのときは落ち込みました。×のついたページは今も捨てずにあります。内容的にこういうものは、こういう流れでは書いてはいけないという教訓になるからです。この時期には頭の中がボーッとなってしまうくらい論文に追われます。研究室に1日中閉じこもり、シャワーにも入らない日々も続いたりします。そんなときの唯一の気晴らしはインターネットを見たり、友達とメールを交換するくらいでした。
あるとき私は友達に1通のメールを送りました。その内容は「論文を書くのが疲れた、つまらなくて最悪だ、いつまでこれは続くのだ」というような愚痴を書いたものでした。ところがそれを間違えて担当教授のところに送ってしまっていたのです。次の日に、教授から「君は間違えて、私のところにこのメールを送ったんだね」という返信がありました。私は青くなってすぐにお詫びのメールを教授に出したという失敗談もこの時期のものでした。

ストレスとカゼ

精神神経免疫学研究で、「心理的ストレスとカゼの発症率の関係について」というのがあります。皆さんの関心も大きいと思うのですが、ストレスの高い人ほど、カゼをひきやすいというという結果が出ているのです。
この実験では被験者にカゼをひくように仕向けて、発病するかどうかを調べるものでした。
最初に被験者には色々な質問に答えてもらいます。それで、その人の性格や生活状態、友人関係などを調べ、ストレスのレベルを測ります。そうして、点鼻接種といってカゼのウィルスを被験者の鼻から入れます。その後、各被験者がカゼにかかったかどうかをチェックするのです。カゼにかかったかどうかは、本人から熱があるとか、鼻水が出るなどの症状を聞いたりもしますが、最終的には医師による診断で、体の中にあるカゼに対する特異抗体が点鼻接種前の4倍になったらその人はカゼをひいたと判断します。
この研究についていえば、ストレスが高ければ高いほど、発症率が高く、またその症状の悪化状況も高いということがわかりました。つまりストレスは免疫能力の低下を介して感染症のリスクを高めるというわけです。他にも、やはりストレスの高い人はガンやHIVといった感染病の進行が早いということなどもわかっています。
こういったことは、これまでなんとなく言われていた事柄ですし、なんとなくわかっていたことでもあります。しかし、客観性をもった立証はされておらず、1970年ごろから研究が始められたものなのです。
そして実社会においては、ターミナルケアと呼ばれる死に関する医療ケアなどにつながっていきます。例えば末期癌患者に対して心理行動療法を用いることで延命効果をもたらすとか、余計な痛みを取り除き生活のクオリティーを上げるとか、さらに患者さんのケアをしている人へのケアを行うといったものです。
最近では人工授精を試みているカップルのストレス具合と受精率などの研究なども盛んに行われるようになってきました。

世界でもトップクラス

私の研究室の教授陣や院生の論文は精神神経免疫学の研究では世界的に見ても進んだ位置にある1つであると言われています。事実、研究室の教授陣の論文は『Psychosomatic Medicine』、『Psychological Medicine』、『Journal of  Psychosomatic Research』など、どれも受理掲載率が10%程度といわれる、非常に世界水準で高度な学術誌にもよく掲載されています。
また、進んでいることの理由の1つに、この国の柔軟な考え方ということがあります。精神神経免疫学は医学部と心理学部と、病院などのヘルスケアの現場の3つが合わさって成立する分野です。私が所属する研究室では学部の壁を取り払い、それぞれのエキスパートたちが集まり1つの新しいセクションを形成しています。これは日本ではまだまだ次世代の話とされています。
私は現在、博士課程に在籍しています。ここでは英語力をさらに高める必要があると感じています。研究論文を書くにあたっては、世界中のその領域の研究者、大学機関の教育者が読む文献ですから完璧さが要求されますし、完璧であって当たり前なのです。コンマの位置1つでも間違いがあってはならないのです。多くの専門分野にわたる複雑な研究内容だからこそ、論文を書くにしろ、ニュージーランド内外の学会で発表をするにしろ、明確で、豊かで、かつシンプルで綺麗な英語を使っていくことが重要です。先生たち、研究室の院生もそう努めています。そういった環境で私自身英語の実力を上げることは不可欠です。
将来的に研究者としてひとり立ちするためにも質のいい英語は不可欠ですので、忍耐強く自分への課題に取り組んでいくつもりです。

カテゴリ:医療
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