Vol.39 時代を飾るキウイ ニュージーランドの雑誌フードエディター


食欲の秋の到来だ。とは言ってもニュージーランドには日本のような旬の食材に何があるかの情報も少なく、それらが豊富に出回るわけではない。おまけにそれらは手に入れづらい。ならばどうするか?
雑誌『Cuisine』を見てみよう。1987年に創刊された『Cuisine』は今ではニュージーランドにレベルの高い料理雑誌 があると世界中で言われるようになり、250ページほどの中に食材、料理、レストラン、ワイン、旅行などの情報が溢れるように詰め込まれている。秋の食材は旬の食材情報ページに、それらを使った料理はレシピページに、旬の食材を使った料理を出すレストランはレストラン批評ページに、さらに、季節に合わせたワイン批評も充実している。食欲の秋を満足させるのは『Cuisine』と言っても過言ではない。

そんな注目を集める雑誌『Cuisine』の編集者の中で最も影響力の強い一人が、ロレイン・ジェイコブスだ。レストラン批評から始めた『Cuisine』の執筆は、現在では、食材、レシピ、ワイン、旅行にまで広がり、『Cuisine』ばかりではなく、食の評論家として、ニュージーランドをはじめ世界のレストラン、食品関連組織の要職も務めるようになった。

Lauraine Jacobsさん/ ニュージーランドの料理評論家【Profile】
オークランド生まれ。マウント・イーデンにある教育大学卒業。インターミディエイト・スクールの教員を経て、料理の世界へ。1990年『Cuisine』のレストラン批評から始め、現在では最も影響力のある編集者兼食評論家に。最も好きなレストランはオークランドの「フレンチ・カフェ」。家でディナーを作る主婦、母親の役割も毎日こなす。食べる事が仕事のため、週2~3回はトレーナーを付けてジムで汗を流す。

ウェリントンは 侮れない
最新号でウェリントンの2軒がレストラン・オブ・ザ・イヤーを受賞

『Cuisine』3月号でレストラン・オブ・ザ・イヤーを発表しました。4つのカテゴリーがあります。
カジュアル・カフェスタイル・レストランにはカンタベリーのワイパラ地区のワイナリー、「ペガサス・ベイ・ワイナリー」にあるレストラン、ベストサービスにはオークランドの「ソウルレストラン」、ベストワインサービスにはウェリントンの「ローガン・ブラウンレストラン」、大賞にはウェリントンの「カフェ・バスティル」が選ばれました。

4つのカテゴリーのうち2軒のレストランがウェリントンからでした。最近ウェリントンは食のレベルが非常に高くなり、オークランドに引けを取らないレストランが次々と誕生しています。オークランドはウェリントンに比べ、人口の多さからレストランの数も多いため業界の競争もより激しく、人の出入りの激しさからも、世界中の料理の影響を受けて最もレベルの高い料理が出る土壌にあるはずなのですが、今年はウェリントンがオークランドを凌いだ感がします。なぜウェリントンなのか?に対しては、はっきりした答えが見つからないのですが、アウトドアをはじめとする遊びがオークランドほどない事、気候の良さなどで、人々がより食べ物に集中している感じがします。実はこの現象はオーストラリアでも同じです。最大の都市シドニーよりもメルボルンにオーストラリアの食はあり、と言われるようになって来ています。
とは言っても、次点になったレストランはオークランドに4軒もありました。もちろんオークランドのレストランのレベルの高さは世界のどの都市と比較しても見劣りする事は言うまでもありません。

もともとは学校の先生
教職よりも料理を作る事への興味が今の仕事につながった。

インターメディエイト・スクール(日本の小学校の高学年)の教員をやっている時にOE(Overseas Experience)で一年間ロンドンに行きました。海外でいろいろ見たり聞いたり、知り合いになった友達と交流しているうちにふつふつと料理への興味が湧いてきました。オークランドに戻ってから、再び教員をやりながら、もう一度ロンドンに行って本格的に料理を学びたいと思うようになりました。それも料理界の最高峰と言われる学校「ル・コルドン・ブルー」で学ぼうと思ったのです。フランスに本部を持つ「ル・コルドン・ブルー」はすでにロンドンで開校していました。当時は学校での仕事が終わると、夜はポンソンビーロードの小さなレストランでウエイトレスのアルバイトをして滞在費と学費を稼ぎました。

2度目のOEで再びロンドンに飛んで、「ル・コルドン・ブルー」に入学し、2年間を終了したあと、パリにあるイギリス大使館でシェフとして採用されました。その後、アメリカでもレストランで働いたあと、オークランドに戻ってきました。
オークランドでは「Austins」と言う名前の料理学校を88年に作り、90年まで海外で学んだ料理を地元の人たちに教えました。当時はまだ今のようにニュージーランド人が食文化に目覚める前で、新しいメニューやテクニックに生徒の多くが驚きました。パスタを作る時にスプーン一杯のクリームを入れると滑らかになる事などは誰も知りませんでした。さらに、家でも料理教室を開きました。家にある今のキッチンは1980年にエンジニアの夫がデザインして作りました。キッチンテーブルが横長で平らなだけで、囲いも何もありません。当時ではかなり斬新なデザインで、今ではキッチンテーブルの主流となっているほどのデザインでした。何人かの生徒を相手に料理を教えるのに最適なキッチンテーブルでした。ちょうどその頃、『Cuisine』からレストラン紹介の執筆を依頼されました。

ワインで進歩したニュージーランドの料理
いいワインが作られるようになったからこそ、料理のレベルが上がった。

『Cuisine』でレストラン紹介を受け持ったのは90年です。この15年の間にレストラン・オブ・ザ・イヤーのアドバイザーの一人にまでなれ、レストラン関係者に顔見知りが増えました。当然、日本食レストランも良くチェックしています。そこで、私が考えさせられる事があります。この移民の多さで世界各国の料理が食べられるようになったのはいい事なのですが、自分の国の料理ではないレストランをオープンさせる人が以外と多い事です。例えば、日本人以外のアジア人がオープンする日本食レストラン、イタリア人以外のヨーロピアンがオープンするイタリアレストランなどです。一概に悪いとは言えないのですが、実際に経験も技術も知識もあまりないのにニュージーランドでだから、儲かりそうだからと言う理由でオープンし、プロではないレベルにもかかわらず、一流店並の金額を取る店がある事は確かです。『Cuisine』の読者にとってみると、レストランでは「いい時間」を過ごせる事が最も大切なはずです。「いい時間」を提供できる店ならば、オーナーやシェフの国籍は関係ありません。ただ、お客さんからお金をもらうわけですから、プロとして「いい時間」を提供できるようでなければいけません。私は実際に自分の国籍とは違った国の料理を出すレストランのオーナーやシェフを何人か知っていますが、その人たちのプロ意識と言ったら、すごいです。食材やテクニックの最新情報の収集、その国のレストラン事情から始まって、この国の言葉まで貪欲に学ぼうとする態度には驚かされます。彼らの店に行くたびにいつも新しい発見があり、「いい時間」を過ごせる事が出来るのです。

今までにそんな「いい時間」を過ごせる店をたくさん紹介しているのですが、私が掲載する店を選ぶ基準は、まず料理です。おいしい料理と言う点ではニュージーランドはここ4~5年の間に著しい進歩を遂げました。その理由は質のいいワインが作られるようになった事が大きいでしょう。ワインと料理は切り離して考える事は出来ないのです。いいワインがあるところには、必ずいい料理が存在するのです。さらに、海外で経験を積んだシェフがニュージーランドに戻って来て腕を披露する機会が増えたことでしょう。 今まではロトルア、クライストチャーチ、クィーンズタウンなどが有名な観光地と言われていましたが、ワイン産地のホークスベイやネルソン、マールボロ、セントラルオタゴなどが新しい観光地として注目を集めるようになってきました。これらの地域にあるワイナリーに併設されたレストランではニュージーランドの料理がレベルアップした事を裏付ける証拠をいくらでも見つける事が出来ます。

レシピで売れる『Cuisine』
最も人気なのはレシピ、次いでレストラン批評

今ではレストラン批評の他に、レシピ、旅行情報などいろいろなページの執筆もしています。全ページの約半分を占めるレシピは『Cuisine』の最も人気が高いページです。『Cuisine』が売れているのはレシピがあるからと言ってもいいかもしれません。レシピは新聞やあらゆる雑誌で掲載されますが、それらが簡単に、早く作れる料理を紹介するのに対して、『Cuisine』ではテクニックやコツ、珍しい食材を使ったレシピにこだわっています。最新号では旬のトマトをテーマにレシピを書きました。トマトの栽培、野菜としての特徴など一般情報を勉強し、生産者や販売者に取材をします。どんなレシピを紹介するかは全て私が決めます。今まで海外旅行した時に出会った料理、ニュージーランドで食べた料理、母親から教わった料理、家族に作ったことのある料理などを参考にして、自分のインスピレーションも加えます。『Cuisine』には毎号巻末にレシピの索引が付けられ、後になって、実際に使えるように考えられています。また、ウェブでもレシピを見に来る人が非常に多いのです。

『Cuisine』は隔月刊ですが、企画のミーティング、レストラン批評のための訪問、レシピの取材と試作、そして執筆という内容で、月曜日から金曜日まではやる事が山ほどあります。おまけに28歳の娘と26歳の息子が未だに家にいるため、家族の食事を作らなければなりません。2人の子供達が家を出ないのは私の作る料理があるからではないかと思います。レストラン取材は夜になる事も多く、家族に作った食事をつまむ間もなく家を出て、レストランに向かう事もよくあります。そんな毎日なので、毎週末は夫とオークランドの北にあるビーチハウスに行き、ゴルフをやってリフレッシュしています。
『Cuisine』での仕事以外に食関連団体のメンバーに名を連ねています。アメリカ人で組織された、プロを自認する料理人の組織(International Association of Culinary Professionals)に唯一のニュージーランド人として参加しています。さらに、ニュージーランド貿易産業公社の大使としてニュージーランドの料理とワインを海外に向けてプロモーションする役職にも就いています。

カテゴリ:出版
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