Vol.16 自由時間 オークランドのオーケストラ フルート奏者


オークランドで活動しているオーケストラ 「Aotea Youth Symphony」 に所属して、フルートを演奏している沼田可奈子さんがニュージーランドに来たのは02年7月であった。

フルート奏者:沼田 可奈子 さん

クイーン・エリザベスII世号でフルートを演奏しました。

1983年生まれ。宮城県仙台市出身。高校卒業後、英語習得を目的にニュージーランドに来る。語学学校を終了し、現在は旅行関係の学校で学ぶかたわら、「Aotea Youth Symphony」に所属し、フルートを担当する。休みの日はホームステイ先の家族と近くの動物園や公園に出かけて過ごすことが多い。

「この国に来た目的は英語の習得でした。小学校の頃、初めて英語を習うキッカケを得て、中学、高校と興味を持ちながら勉強をしていました。高校では英語科に進み、外国人の先生から教わる機会がありました。また、ニュージーランドの高校と姉妹校の関係を持っていた学校だったことから、友人の中には交換留学に行く人がいました。彼らからニュージーランドの写真を見せてもらったり、ニュージーランドの人は親日家が多いとか、環境がのんびりしているといった国の様子を聞かされていました。
そして、高校3年のとき、進路について考え、留学をしようと決心したのです。
それからというものコンビニでアルバイトをして渡航資金をため、英会話スクールに通って、準備をしました。
そして、02年7月にニュージーランドに来ました」

当初はホームステイをしながら語学学校に通う事となった。

「3歳と7歳の子供が2人いる家庭にホームステイしながら、語学学校に通いました。初めは勝手がわからず、学校でも、家でも言葉の面や環境の違いから少し戸惑っていました。ですがすぐに慣れ、学校に通う以外に何かを始めようと思っていました。
あるとき、ホームステイの7歳の子がバイオリンを家で弾いているのを聞き、ホストマザーから、その子がバイオリンを習っている事を教えてもらいました。私はそれに感化され、フルートをやってみたくなったのです。
実は中学、高校と吹奏楽部に所属していました。ですから、機会があればこの国でもそれを続けたいと思っていたのです。日本からの荷物の中にはフルートもしっかり入れていました。
ホストマザーにフルートを吹ける場所がないか相談しましたがわからないということでした。
私は諦められずに、その日から新聞を見たり、街で掲示板などの情報が張ってある場所に行き、調べたりと常にアンテナを張って情報を得るようにしました」

語学学校に通いながら、フルートが吹ける場所を探していた可奈子さん。数ヶ月の時間が過ぎ、思わぬところから情報を得る事ができた。

「ホストマザーが、演奏を習っている子どもの先生に相談していてくれたのです。その先生が『Aotea Youth Symphony』というオーケストラを教えてくれました。やはり音楽をやっている方はその関係の知り合いが多いのです。
『Aotea Youth Symphony』はホームステイのすぐ近所で練習をしているということでした。毎週火曜日メンバーが集まり、全体練習をしているというので早速、教えてもらった場所を訪ねていきました。練習を行っている建物には70人ほどが集まっていました。10代から20代くらいの若い学生が中心です。
演奏の準備をして、チューニングを済ませると、コンダクターの指示のもと、バイオリン、コントラバス、フルートなどの弦楽器から管楽器まで様々な音色が合わさっていきました。
練習は、いくつかの曲を全体で通しながら演奏したり、小節ごとに演奏したりしていました。
開始から1時間ほどして、休憩の時間になったので、コンダクターの人に話しかけました。自分がこのオーケストラに参加したいことを話すと後日オーディションを受ける事になりました。
そのときは、このオーケストラがどういった形で活動しているとか、どういう人が参加しているとか、何もわかりませんでした。ただフルートを吹きたいという、ニュージーランドに来てから、数ヶ月間ためていた思いから気軽にアプローチしてしまいました」

 「Aotea Youth Symphony」はオークランドのマウント・アルバートを拠点として活動しているオーケストラで、約10年の歴史がある。地元の若い音楽家の育成の場という形で40年の音楽経験があるメンバーが指導にあたり、定期的に演奏会などを行っているという。過去にはカナダや日本などで演奏を行ったり、シドニーオリンピックで演奏したり、と国の内外を問わず、活動の幅は広い。

「オーケストラを見学に行った後、オーディションでは、どういったことをするのだろう?と少し不安になりました。私は高校のときには吹奏楽部で副部長、部長を経験しました。年1回行われる全国吹奏楽コンクールやアンサンブルコンテスト、文化祭など、形や規模は違いますが、いろいろな場所での演奏をしたり、それに向かって部全員で取り組んで活動を行っていました。
ですから、プロとは言いませんが音楽の基礎となることは知っていましたし、十分な演奏の経験があると思っていました。
しかし、オーディションは受けた事がありませんでした。自分の今までが試されるようで少し怖い気がしました。
練習を見学に行って以来、語学学校で授業を受けていても、ホームステイにいても、オーディションのことが気になって落ち着かない日々を過ごしていました。そして、ようやくオーディション当日になり、コンダクターの家を訪ねました。
そこでは、まず簡単にインタビューを受けました。
この国にはどうして来たのか?今までの演奏経験はどのくらいあるか?といった質問でした。
私は語学を習いに来ている事、学生時代、吹奏楽部で活動していた事を話しました。それから、実際に1曲を演奏しました。曲目は『カルメン』だったのですが演奏をしたことがあったので無事演奏できました。そのあと、コンダクターが弾くピアノの音をハ長調だとかニ短調だとか当てる質問がありました。
時間にして、30分くらいの短いものだったのですが、オーディション中は、とても緊張していて、終わった後はどっと疲れが出たのを覚えています。
結局、次の練習から来るようにと言われました」

オーディションも無事終わり、練習初参加の日がやってきた。

「練習初日はメンバーが集まる前には到着していました。私はそのとき、少し緊張していたのです。学生の時の部活動以来、久しぶりに大勢の人と一緒に演奏するということと、まして日本でなく海外でその機会を持つということにです。
時間になるとメンバーが次第に増えていき、各自演奏の準備をしていました。そして、コンダクターから私の簡単な紹介があって、すぐに練習が開始されました。
練習は、すべての説明や指示が英語で行われるので、とても大変でした。次はどこの小節から演奏するということなどを隣の人に確認を取りながら、練習についていきました。何をやるかがわかれば、音楽を通しての事なので問題はありません。ですが、言葉の面で練習がどのように進行するかをすぐに判断できないと、みんなより一歩遅れてしまうので苦労しました。
メンバーと一緒に、はじめて演奏したときには、みんなの音が大きいという事を感じました。日本で練習をしていたときに良く注意されていた事がもっと音を大きく演奏しなさいという事でした。日本人の場合、練習をしている過程では、おのおのが演奏に自身がなく、音が小さくなる傾向が強いみたいです。ですが、こちらは練習でも自信を持って演奏しているのです。その演奏する姿勢が音として表現されているのです。
こちらで練習中、コンダクターから、たまに音のボリュームを押さえるように指示をされるときがありました。それは今まで体験した事がなかったので驚きました」

毎週1回、2時間の練習の中で、各自が練習した成果を全体で合わせる。

「毎週の練習ではクラッシックから、ロード・オブ・ザ・リングやビートルズといったモダンな曲まで演奏しています。事前に課題曲の譜面を渡されて、家で各自が練習しているのです。日本での部活の経験から、こちらに来ても、練習の前には音を出やすくするために、ストレッチをして体を柔らかくして、リラックスした状態にしています。フルートという楽器は息を吹き入れる角度が音を出す際に重要になります。ただ、息を入れても、音程を保つ事はできませんし、安定した音を出せません。
初めて演奏を経験した人の中には、酸欠状態で頭がクラクラする人もいるくらいです。そして、曲を演奏するときは息継ぎがポイントになるので、長く安定して吹き続けることが演奏を上達する鍵になります。
私は毎回、全体で練習を行う際に、メンバー全員がきちんと練習をしてきていることに驚きました。あたりまえのことですが、メンバーひとりひとりが自立した目的意識をしっかり持っているということを強く感じました。それは日本の部活で経験した、上のものが下の面倒を見るというような関係とは少し異なると感じました」

練習に参加してから可奈子さんはいくつかの発表する機会にも恵まれた。

「オークランド市内にあるアオテアスクエアやシビックなどのホールで月に1回は演奏をする機会がありました。これらのホールは日本でいうとプロでないとなかなか演奏できないような場所です。 ですが、ニュージーランドでは、これらのホールを利用したイベントが盛んに行われていて、そこで演奏する団体の1つとして参加しています。
今年の2月にはクイーン・エリザベスII世号の船内でその中のお客さんに演奏をする機会を持ちました。ちょうど、オークランドに寄港していたのです。
クイーン・エリザベスII世号は選りすぐった寄港先と世界各地の文化を体験できるということから人気の客船で洋上都市といわれるほど豪華な設備を誇っています。ゴルフの練習場、カジノ、ミュージカル劇場、映画館などの施設がある、70327トンの大きな船内に乗組員約1000人を含む、約2500人が乗りこめます。日本にも寄港して、そこから乗船することもできるそうです。
実は、この演奏をする前にコンダクターから船で演奏をすることを聞いていました。ですが、どのような船かまったく知りませんでした。なので、当日、船を目の前にして、それがクイーン・エリザベスII世号だと知り、驚きました。
厳重な警備を通過して、船内に入りました。係りの人に演奏を行う場所まで案内されて、演奏の支度をして、リハーサルを行いました。クラッシックからポップスまで、今まで練習した曲を簡単に通した後、船内を少し見学しました。
船内ですれ違うお客さんは品が良さそうな人ばかりでしたし、デッキに出るとバスケットコートがありました。少し歩き回っただけでも、その船のすごさを感じることが出来ました。今まで出会ったことのない雰囲気や様子に戸惑いながらも、この客船に映画『タイタニック』のようなイメージを重ねました。そして、その中で演奏できることを楽しむことが出来ました。別世界で演奏しているような、夢のような感覚のまま、あっという間に時間が過ぎてしまいました。そこでの出来事は私の自慢になっていて、日本の家族にも演奏が終わった後、すぐに報告しました。
オーケストラに参加している仲間は私と同年代の人が多く、音楽が好きで小さい頃から楽しみながら楽器に接していると感じます。また、行事に参加する機会が多く、演奏する経験を多く持てることは羨ましい環境だと思います。私は、
この恵まれた環境で、もっといろいろな経験をできたらいいと思っています」

カテゴリ:趣味
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