Vol.136 Greg Hall / KOHU ROAD, Ice Cream Maker |
天井が高く広々とした空間。年代モノのキャラバンを子供の遊び場にあつらえたコーナー。アンティークな家具と素朴なインテリアがどこか懐かしい。オープンキッチンからは自家製のマフィンやケーキが焼ける良いにおいがする。コーヒーの香り。でも、ここKOHU ROAD カフェの主役は色とりどり並んだアイスクリームとシャーベットだ。どのフレーバーも一度それを試したら、今まで食べていたものには戻れなくなる魅惑の味。その仕掛け人Greg Hall氏に話を聞いた。
アイディアが膨らんでビジネスになった
私はWellington 生まれ、Wellington 育ちです。高校を卒業した後、専門学校で写真を学びました。18歳のとき、プロの写真家になることを夢見てロンドンに渡りました。でもそれは無理な話、実際は写真とは全く関係のないところで働きました。その会社で日本人のガールフレンドと知り合い、3年半後にはその彼女の勧めで東京に移り住みました。22歳でした。
日本に着いて初めのうちは日本に住む多くの外国人がそうするように、英語を教えたり、いろいろな短期の仕事をしてその日暮らし。でもそのうちに現在の妻と知り合い、彼女の両親に結婚を認めてもらうために、ちゃんとしたサラリーマンになりました。1997年のことです。アメリカ人が始めた新しい会社でした。IT関係の人材を中心に紹介するリクリートカンパニーでしたが、4−5年という短期間で社員180人を数えるほどに急成長。私は会社の創始当時からのスタッフだったので、副社長、という肩書きにまでなりました。国立の住居から赤坂のオフィスまでまで、日本人と同じように毎日満員電車に揺られて通勤していました。
7年半ほどその会社に勤める間に結婚、子供も2人生まれました。そして2005年に「子供をニュージーランドで育てたい」という理由でこの国に家族を連れて戻ったのです。オークランドの会社に職を得たので、オークランド西部郊外のKohu Roadに家を買いました。
その家で、それまでやりたくても日本の狭いキッチンではできなかったこと、例えば、エスプレッソマシンを買って本格的なコーヒーを自宅で煎れるとか、ブレッドメーカーで毎日焼きたてのパンを食卓に乗せるなど、「食べる」ことを楽しむようになったのです。アイスクリームメーカーもそのときに購入した新しい台所用品のひとつでした。
我が家の手作りのアイスクリームは、すぐに友人の間で評判になり、注文を受けて知り合いに販売するようになりました。周囲の賞賛と後押しが、このアイスクリームビジネスを始めるきっかけになったのです。
3人目の子供の出産のために短期間日本に戻りはしましたが、2007年には再びニュージーランドへ移り、本気でアイスクリームメーカーの道を歩み始めました。 2007年8月にKOHU ROADを会社として登録。最初は家のキッチンで私が作ったアイスクリームやシャーベットをファーマーズ・マーケットなどで販売しました。細々とした売り上げでしたが、手ごたえがありました。一度食べた人が再び買いに来てくれる。また知り合いを連れて来てくれる。口コミで徐々に顧客が増えていきました。 KOHU ROADのアイスクリームやシャーベットには、香味料、着色料、乳化剤、安定剤などの食品添加物が一切入っていません。牛乳やクリームは、私が労力と時間をかけて見つけたオーガニックファームから、新鮮なものを仕入れます。シャーベットに使う水は、最高とされるニュージーランドのミネラルウォーターを使います。フレーバーに使う果物もほとんどがオーガニック。マダガスカルから最高級のマンゴーを仕入れたり、高品質のチョコレートはフランスから、などと原料を吟味、厳選しています。おいしいのは当然ですよね。 そんな原料で手作りする製品ですから当然のことながら値段は高いです。1リットルの容器入りで20ドルほど。アイスクリームとしたら最高級といえるでしょう。でもね、1本25ドルや30ドルするようなワインを楽しむグルメなお客さんにアピールするはずでしょう? 誕生日など、特別な機会のぜいたく品としても、需要があるはずだと思います。 また、原料にこだわって添加物ゼロで作っているおかげで、ベジタリアンやベーガン、アレルギー体質など、医学的、または宗教的にダイエット制限がある人たちにも楽しんでもらえます。 少し前の話になりますが、オーストラリアの、ある食品添加物にアレルギーを持つ子供のお母さんから、「KOHU ROADのアイスクリームはオーストラリアでたった一つ、問題の添加物が入っていないアイスクリーム。おかげでうちの子も周りの友達と同じようにアイスクリームが食べられるようになりました」と、感謝のメールをもらったときは本当に感動しました。ナチュラルな良い素材に徹している私たちの信念を改めて認識した嬉しい出来事でした。
ビジネスを始めた当初、スーパーで普通に買ったアイスクリームが2年間の賞味期限を持っている、という事実に愕然としました。当時、一番下の娘は1歳余りでしたが、よちよち歩きの彼女を見ながら「このアイスクリームはこの子が生まれる前に作られたんだ」と考えるとゾクッとしました。 冷凍食品イコール長期保存、という図式は確かに成り立ちますが、いくら凍らせてあるからといっても、食品は老化していく。KOHU ROADの製品にはその種類によりますが、せいぜい3ヶ月から6ヶ月の賞味期限を付けています。冷凍保存するものなのに、なんだかちょっと矛盾しているような感じがするかもしれませんが、私たちのアイスクリームはなるべく新鮮なうちに味わってもらいたいのです。それから、保存温度にも気を使って、ベストな状態で楽しんでもらいたいものだと思います。
さて、ファーマーズマーケットで6ヶ月ほど販売し良い感触を得たので、2008年の初めにはNewtonの小さな工場を借り、イタリア製の大きなジェラートマシンを購入して、本格的にビジネスに乗り出しました。国内での売り上げが徐々に伸び、輸出をするようになった2年後には、もっと大きなスペースが必要になりました。 ここ、Portage Roadの工場は1888年に建てられた建物で、木材むき出しのフレームなど、どこか環境に優しい、素朴な感じを受ける場所です。輸出用のコンテナを出荷するにも充分な広さ。2010年に引っ越したときは道路に面していない今の工場部分だけを借りていたのですが、後に道路側も借りてアイスクリームカフェを開きました。直接お客さんの声が聞けるフラッグショップとして役に立っています。 現在、スタッフは全部で20名ほど。オフィス、工場、カフェのスタッフはここがベースで、そのほか地方数箇所に、配給担当のサテライトスタッフがいます。 以前は主に私が行っていた新しいレシピの開発も、異なったバックグラウンドを持つ優秀なスタッフチームが受け持つようになりました。例えばインド人スタッフのアイディアで開発したカーダモンフレーバーのスパイシーアイスクリームなど、ヒット商品が生まれています。 これからも原料にこだわる、環境保護にこだわる、など自分たちの信念を貫いて、最高のアイスクリームを作っていきたいです。そんなKOHU ROADアイスクリームを多くの人に知ってもらいたい。それから早く世界的に不況から脱出して、より多くの人が私たちの商品を買い易い、と感じるようになるといいなあと思います。
この記事を読んで、Greagさんのように自分で会社を始めるためにビジネス等を学びたい方、ビジネス留学をお考えの方は下記のお問い合わせよりイーキューブのキャリアアップ留学センター「イースクエア」までご連絡ください。 |