フローリスト / Star Florist : 東山 理恵さん
お花が生活に自然と溶け込むNZで、
フローリストの仕事を通してキウイ文化と大いに触れ合っています
1年間、人生のブレークを取るためにニュージーランドに来たと語る、東山理恵さん。日本の殺伐とした生活とは対照的なピースフルな仕事がしたかったことから、フローリストを目指し、その仕事を手に入れた彼女。そんな理恵さんに、フローリストになるまでの過程とフローリストのお仕事について語っていただいた。
東山理恵
Rie Higashiyama
1978年栃木県生まれ。2003年横浜国立大学大学院卒、凸版印刷に技術系採用で入社。2006年10月ニュージーランドへ渡航。1ヶ月語学学校に通った後、HanaClub NZでフラワーアレンジメントを学ぶ。ダウンタウンショッピングセンターのグランドフロアのお花屋さん『Star Florist』で週末働く。ショップでは、キウイ文化およびオーナーの作る花束から多くのアイデアを得ている。たとえば花束では、アジサイの周りに花を並べるのではなく、ユリを一本、アジサイの真ん中に刺すなど、日本では思いつかない発想に刺激される毎日を送っている。
Star Florist / Pauline Orwin(オーナー)
Tel:09-379-7412
Cnr Queen St & Custom St Auckland City
人生のブレークとしてニュージーランドへ
昨年の10月中旬に、人生のブレークとして、ワーキングホリデーでニュージーランドに来ました。大学院卒業後、大手印刷会社に技術系採用で入社した時に、数年間働いた後、30歳になるまでに一度ブレークをとって、勉強するなど自由な時間を持とうと考えていました。会社では環境を担当していて、仕事に追われる殺伐とした日々を送っていましたね。3年半働いた頃、働き過ぎといっても過言ではないような状態で、エネルギーが足りなくなっていたのです。男性と同じように働くには体力的な問題もありますし。それでこのまま数十年間、仕事を続けるよりは、転職可能な時期に一度しっかり休息をとって社会に復帰したいって、昔と同じような考えに至ったのです。
昨年3月に退職することを決心し、仕事の引継ぎを9月末に終えて、その2週間後にはニュージーランドにいましたね。山と海があって、自然が豊かなことが気に入って、この国に決めました。計画をはじめた頃は、旅行とか、英語の勉強をしようとか漠然と考えていたのですが、それだけでは折角の1年間のワーホリなのに、することが無くなるでしょうから、目的をもっと明確にしたかったんですね。そう考えているうちに、生花を日本で習っていたので、ニュージーランドのお花屋さんで働けたらいいなって思うようになりました。それで、お花屋さんの仕事の探し方をネットで調べて、HanaClub NZというフラワーアレンジメントのスクールを見つけました。
ニュージーランドでフラワーアレンジメントを学ぶ
ニュージーランドに着いて、1ヶ月間、語学学校で英語を勉強し、それからHanaClub NZに通い始めました。コースは、花束の作り方、アレンジメント、ウエディング関連のブーケ、コサージュ、髪飾りの作り方を4週間で学び、その後、2週間お花屋さんで研修というプランでした。授業で毎日どんどん違うことを習うので、自分で作った作品を家に持ち帰って、それを分解して、作り直して練習していましたね。そして、いつもその作品を、フラットオーナーにプレゼントしていました。
まず花束は、単に花をギュッと束ねるのではなくて、スパイラルといって、花の茎が斜めになるように、一本ずつ順番に組みます。アレンジメントでは、緑色の水を含んだオアシスというものに花を刺していってテーブルアレンジメントを作りました。刺していくだけなのですが、バランスが意外にむずかしいんです。でも、先生が一本のお花の位置を動かしただけで、見栄えがぐっと良くなるんですよね。ブーケ、コサージュ、髪飾りの作り方は、使用する全てのお花の茎にワイヤーを刺して、花の形を固定できるようにして。あとは、それらのワイヤーの入ったお花を使って、作りたい形に形付けていくのです。ほかには、これらを基本として、オリジナルのウエディングブーケを作りました。予算を決めて、マーケットで値段を見ながら、お花を自分で選んで購入してブーケを作るのです。これも案外むずかしくて、ブーケに合わないお花を購入してしまったりもしましたね。このスキルは今の仕事でも要求され、注文に応じて、値段を考えながら花束を作るのに役立っています。
それから、ラッピングも重要な要素です。普段は、斜めにラッピングペーパーを折って、2枚を合わせて使う方法と、1枚の大きなラッピングペーパーを広げて包むタイプを使い分けています。研修先の花屋では紙袋に花束を入れ、花束の周りを薄紙で囲むという方法をとっていました。ラッピングは、花との色合わせを考えたり、リボンを2種類使ったりと、工夫のしがいがあるので、花束を作る時の楽しみのひとつでもあります。
理想どおりのフローリストの生活
12月初旬からクリスマス前までの2週間、パーネルにあるお花屋さんでインターンシップをしました。現在は、ダウンタウンショッピングセンター内にあるフラワーショップ『Star Florist』で働いています。私の友人が、このお花屋さんで2週間研修をしていた時に、『オーナーがすごく良い人なのよ』って彼女から聞かされていたので、このお店で働きたいと思ったのです。オーナーはひとりでお店を切り盛りしているので、もしかしたらお手伝いとして雇ってくれるかな、って少し期待しながら履歴書を持って行きましたが、『必要になったら連絡するわ』という返事が返ってきました。それで、そこのお花屋さんで働くことは無理かなと思って、オークランドミュージアムのカフェでバイトを始めたのです。そしたら、オーナーから連絡がきて。はじめの3日間は無給で、お花の作り方などの研修を受けて、その翌日の土曜日からお店を任されました。土日の店番ができることを条件に雇ってもらったものの、私は英語が流暢に話せる訳ではないし、お花も急いで作って欲しいって言われたらどうしよう、って初日はほんとうにドキドキしましたね。オーナーは、『大丈夫だから、何かあったら連絡して』って気軽に言ってくれたのですが、英語で電話をするのも大変だし。週末の朝は、オーナーが店に電話をくれて、その日にすることを確認するのですが、それを聞きとるのも一生懸命ですしね。ただ、現在はフローリストとしてスキルアップすることで精一杯ですが、ニュージーランドに来る前に想像していた以上に、理想どおりの生活が送れているのでとても充実しています。
フローリストとしてキウイ文化と触れ合う
ニュージーランドと日本の色彩が大きく違うこと。それをとても強く感じますね。ニュージーランドのラッピングをはじめて見た時はびっくりしました。だって、お花より目立つショッキングピンクのラッピングペーパーを使うのですもの。日本では、淡い色調や優しい感じとか、英字新聞などのシンプルなラッピングや花束が好まれます。日本の気候や風景にはそれが合うのでしょう。でもニュージーランドでは、それでは地味過ぎるようです。ニュージーは日差しが強いので、インパクトのあるお花でないと映えないのでしょう。一本一本のお花がニュージーの方が大きくてたくましいですし、エキゾチックな派手なお花が多いです。お花の合わせ方も違って、日本だったら、黄色に白とか緑色とか同系色を合わせるのですが、こちらでは補色の関係にあるものが好かれ、黄色と紫とか、オレンジと紫とか、赤と緑とか、ぱっと目を引く組み合わせが好まれますね。
ニュージーランド人は、特別な日でなくてもパートナーにお花を買っていく男性のお客様が多いのが印象的です。日本だったら高級なプレゼントを贈るところを、こちらだとお花に小さな何かを付けて贈ります。みんな、お花とサムシング・リトルと言って注文しますね。ニュージーのお花屋さんはお花だけではなくて、ぬいぐるみなどを売っていて、小さなぬいぐるみを付ける人が多いです。そして、結構な頻度で、お花にメッセージをつけます。とくにLots of loveなど愛のメッセージを。
バレンタインデーは、200オーダー受けました。しかもこれは予約だけの数です。バレンタインデーまでの3日間は、臨時でフローリストを雇って、早朝から夜中まで働き続けましたね。シングルローズ(バラ1本)は通常5ドルなのに、バレンタインデーは20ドル。ニュージーでも、やはりバレンタインといえば、赤い薔薇(バラ)なんですね。その時期は、ほかのフローリストみたいに早く花束を作れないし、英語もできないし、自分が役に立たなくて落ち込みましたよ。最後は、自分のできることをしようと思って、ひたすらシングルローズのラッピングをしていました。クリスマスも忙しかったです。大きな花束をパーティに持っていく人が多かったですね。クリスマス・リリーと言って、ニュージーではクリスマスのお花がユリだということを知りました。先日、オークランドに泊まっていた世界最大級の豪華客船クイーンメリーズ2号の乗客もワイフに花を贈りたいからって、お花を買いに来ましたよ。他には、10日間連続でガールフレンドに花を贈りたいので、オーガナイズしてくれっていう人もいましたね。最近、このお花屋さんの仕事を通してキウイ文化を学んでいるような気がしています。
オフィスの仕事だと言葉が中心になるけど、物が媒体だと英語がそれほどできなくても働ける。それでこのスキルを学ぶことを選びました。そして、日本の生活とは対照的なピースフルな仕事がしたくて。キレイだなって思えたり、ありがとうって言ってもらえるような。キウイのお客様は花束ができるまでに何度も褒め言葉をくれ、最後に『サンキュー!』ってとても喜んで帰って行きます。こちらにいる間は、お花の仕事をずっとしたいですね。日本に帰って、お花の仕事をするかは決めていないのですが、このお花屋さんで働いた経験はどこかで必ず還元されるって思っていて。今も、フラットオーナーに花束を作ってほしいって頼まれたり、フラットメイトに結婚式用の髪飾りを頼まれたりしています。ですので、今後も趣味でも仕事でも、何らかの形でお花を続けていきたいなって思っています。
Tomoko Hirano / HanaClub NZ
理恵さんは、フローリストとして働いたご経験がないのですが、センスの良さと学習能力の高さがあり、6週間で非常に力が伸びた生徒さんでした。また、彼女は非常にフレンドリーで、人とコミュニケーションしようとする姿勢や積極性、柔軟性があり、これはフローリストとしてもとても大事なことなんです。このようなこと全てが、現在の彼女の仕事に繋がったのだと思っています。
HanaClub NZ
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