E-CUBE 2005年07月

VOL.42 7月号


NZで活躍する日本人

時代を飾るキウィ




自由時間 : ワーキングホリデーやスチューデントで活躍中

<小学校教員:小林 加奈子 さん | メイン | オペア:比嘉 新子 さん>

獣医師:及川 悦子 さん

及川 悦子 さんNZ特有の動物からのあたらしい発見は教科書からは得られない生の知識です。

鳥の権威として知られるDr. Westeraの助手として、動物病院でボランティアをしている及川悦子さん。日本では獣医師としての勤務経験も持つが、NZと日本の動物愛護や診療方針に対する考え方の違いにとまどうことも多いという。しかし、こうした様々な経験を通して国際的視野を身につけ、将来は一回りも二回りも成長した獣医師として活躍するに違いない。

及川 悦子(おいかわ えつこ)
1975年生まれ。神奈川県海老名市出身。日本で獣医師として4年間勤務後、2004年5月にNZへ渡航。NZではSPCAのボランティアを経て、現在はLynfieldの動物病院で、助手のボランティアとして週5回午前中、同病院に通っている。午後は語学学校に通い、NZで獣医師として働くために求められているIELTS 7.5を取得するため猛勉強中。週末は友人とヨットで海に繰り出すなど、プライベートも充実している。

Lynfield Veterinary Clinic: 122 White Swan Rd. Lynfield Auckland 09-626-4335

獣医師になることは幼い頃からの夢で、高校生のときは、地元の動物病院で受付や助手のアルバイトをしました。その頃には、将来獣医師以外の何かになった自分を想像することすら困難なほどで、自然に獣医大学に進学し、卒業後は長野県立動物愛護センターに就職しました。
 そこでは、施設に収容されている犬や猫の新しい飼い主を探すための、避妊、去勢手術をするのが主な仕事でした。その他、動物愛護の普及活動の一環として、動物の扱い方教室を開いたり、動物を社会福祉施設に連れて行き、動物と直接ふれあう機会を提供していました。大好きな動物に囲まれた環境で、毎日とても充実していましたが、2年後、保健所への異動を言い渡されたのです。
 通報のあった飼い主不明の徘徊犬の保護や、住民からの動物に関する苦情への対応などの業務もありましたが、約80%はレストランの厨房、食品製造所の立ち入り衛生検査をする食品衛生監視員としての仕事でした。2年間そこで勤務しましたが、次第に動物とあまり関われない仕事内容に不満を感じ始めました。また、留学して語学を習得したいとの希望もあり、退職しました。

語学習得と海外で獣医の仕事を体験するため、NZへ渡航することに

大学5年のとき、カナダに語学留学したのですが、そのときにステイさせてもらったファームのホストファーザーは獣医師でした。獣医学や動物を取り巻く環境など、日本とカナダの違いについていろいろ話したかったのですが、当時の私の語学力は簡単な日常会話にも苦労するほどで、ほとんど話はできずじまいでした。そのときの悔しい思いがずっと忘れられず、いつか必ず、きちんと英語の勉強をしようと思っていたのです。
 保健所を退職する直前にNZを旅行したとき、NZの豊かな自然に囲まれた風土が気に入ったこともあり、2004年5月NZに語学留学することにしました。当初の目的は語学習得だったのですが、滞在中にSPCAのボランティア活動のことなどを耳にし、大変興味を持ちました。私も日本での獣医師としての経験を活かして、こうした活動に参加したいと思うようになったのです。運が良ければ、一定期間活動後は動物病院での仕事を紹介してくれるのではないかという、淡い期待もありました。そこで早速SPCAに連絡を取り、ボランティア活動を開始する日付が決定後、いったん日本に戻り、ワーキングホリデー制度を利用して同年11月にNZへ再入国しました。
 私が所属したのはSPCAの動物病院セクションで、獣医師の助手をしていました。その間、日本とNZの動物保護に対する考え方の違いなどについて、改めて考える機会を持ちました。
 NZで飼い主不明の動物が発見された場合、SPCAが保護し、一定期間公示しても飼い主が名乗り出ない場合は、新しい飼い主を探したり、もしくは処分されます。この流れは、SPCAにあたる組織が保健所になること以外は日本でもほぼ同じですが、日本の場合、保護の対象になる動物は主に犬のみで、対象外の動物に関してはほとんど対応もなされていないのが現状です。これは、NZとは異なり過去に狂犬病の発生した日本では、動物愛護に関する法律は、狂犬病が動物から人に感染するのを防ぐために徘徊犬を保護していたということが根底にあります。近年法律が見直され、他の動物も保護の対象に加わってきていますが、動物愛護という観点から見ると、まだまだ十分とは言えません。その点、NZのSPCAの役割は純粋な動物保護が目的で、近い将来、日本にもこうしたシステムが確立することを願っては止みません。

鳥の権威Dr. Westeraの助手として、動物病院でボランティアをすることになった

SPCAでの活動は、私がボランティ活動を始めて間もなく獣医師の実習生が増えたために1ヶ月ほどで終了しました。次のボランティア受け入れ先として動物病院を探していたとき、運良く知人を通して紹介してもらったLynfieldの動物病院で、週5日主に午前中、Dr. Westeraのもとで助手のボランティアをすることになりました。Dr. Westeraは鳥の権威として知られ、ユニテックで教壇にも立っているほか、TV1のSPCAに関する番組「アニマルハウス」にもたびたび出演しています。
 Dr. Westeraの影響か、病院に連れてこられる動物のうちの3分の1は鳥で、さらにその3分の1はSPCAによって保護された白鳥やガネットなどの野生の鳥です。ときにはプケコやトゥイが運び込まれることもあります。鳥は体自体が小さいこともあり、ほんの小さなミスでもすぐ死につながるので、治療には高度な技術が要求されます。大学では鳥の生態についての一通りのことは学びましたが、日本では鳥を治療する機会は皆無だったので、実際にDr. Westeraの治療を見学できるとは、これ以上ない機会に恵まれたと思っています。
 鳥以外にも、ポッサム、ハリネズミ、サンショウウオなどといった、日本の病院では滅多とお目にかかれない動物も運び込まれこまれ、今日はどんな動物が運び込まれるのかと、毎日ワクワクしています。また、通常動物が死亡した場合、解剖して死因を究明しますが、よく解剖後の検体の縫合を担当させてもらいます。特に先に挙げたようなNZ特有の動物では、骨格や構造など様々な発見があり、教科書からは決して得ることのできない、生の知識を得るのに役立っています。
 診療中も立ち会いますが、カウンセリング内容を理解するのには毎回苦労しています。医学用語専門の電子辞書は必ずポケットに入れておき、わからない単語はその都度調べるようにしています。特殊な獣医学用語で辞書に載っていない場合は、病院にある獣医学本でその単語を引き、説明文と自分の知識を照らし合わせて、単語の意味を推測したりします。

NZと日本の治療方針に対する考え方の違いなど、考えさせられることも多い

 NZで動物用の保険はまだまだ一般的ではなく、治療費が出せないという飼い主も多くいます。そういった飼い主たちに、Dr. Westeraは安楽死も含めて施しうるすべての治療法と料金を提示し、飼い主に選択してもらいます。この方針は、飼い主と話し合うことなく獣医の判断のみで治療法が決定される場合の多い日本とは異なるもので、新しい発見でした。「飼い主とのコミュニケーションは獣医師の役割の中で最も重要」とはDr. Westeraから学んだ教訓です。
 また、治療法はケースによって千差万別で、私自身獣医師としてはまだまだ未熟なので、治療全般の知識について彼から学ぶことは山ほどあります。特に私の意見がDr. Westeraの意見と異なったときなどは、積極的に質問して、彼の経験から培った知識を吸収するようにしています。
 現在、午後は語学学校に通い、NZで獣医師として働くために必要とされているIELTS 7.5を取得すべく、英語の勉強をしています。その他にも、日本の獣医免許をNZ獣医師免許に書き換えるには、2種類の試験にパスしなくてはなりませんので、NZで晴れて獣医師として働けるようになるまでにはしばらくかかりそうですが、NZ獣医師免許取得後は、とりあえず2~3年はNZで獣医師として働きたいと思っています。その間に、できれば羊や牛の治療なども経験してみたいです。
 その後のことはまだ具体的には何も考えていませんが、NZ獣医師免許を保持していればNZ以外に、アメリカ、カナダ、イギリス、ヨーロッパ諸国、南アフリカ、オーストラリアでも働くことが可能なので、それらの国で働くことなども視野に入れています。

獣医師:及川 悦子 さんと連絡を取りたい、勉強したい、体験したい、資格を取りたい、この分野で仕事をしたいと言う方はイーキューブ留学セクションまで、お問い合わせ下さい。

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