バンド:Goodshirt
レコーディングはプロのスタジオではなく、自前でフラットの裏にあるガレージで行います。
毎年5月はニュージーランド・ミュージック・マンス(ニュージーランド音楽月間)としてメディアが今まで以上にニュージーランド音楽に注目し、CDショップ、音楽業界関係機関、学校、大学などの教育機関を初め、政府までもがニュージーランド音楽を国内はもとより、海外へ大々的にプロモーションする月として定着して来た。
その結果、ニュージーランド・ミュージックがより多くの時間やスペースを割いてメディアで取り上げられ、ニュージーランド人がより多くのCDを購入し、より多くのアーティストが海外でデビューすることに大きな影響を与えるきっかけになったと言われている。
国内外でニュージーランド・ミュージックに触れる機会が増えてくる中で、また新たに日本デビューを果たしたバンドがGoodshirtだ。アートスクールに通った、元々はアーティスト志望の4人が作ったバンドだけにビジュアルも重視し、ライブで着る舞台衣装に凝り、ミュージックビデオは他とは少し違った工夫を見せるアート指向でも注目されている。ロックでもない、ポップスでもない、どんなジャンルにも属していないバンドと自らを表現し、ニュージーランドでのメジャーデビューにも関わらず、自らのペースでオリジナルを作るために、自分達のレコード会社からCDをリリースしていきたいと強く自己主張するこだわりを見せる。
Goodshirt グッドシャツ
1999年ロドニーとマレーのフィッシャー兄弟とアートスクールで出会ったガレス・トーマス、マイク・ビーレの4人がオークランドで結成。2001年のデビューアルバム「Good」は7ヶ月もの間トップ40チャートにランクインし、プラチナアルバムに輝く。シングル「sophie」は8週連続No.1を獲得し、NZ MUSIC AWARDS 2003のシングルオブザイヤー、ベストソングライティング、ベストPVを受賞。2004年2月にリリースされたセカンドアルバム「Fiji Baby」がある。「Good」は今年4月、日本でTRIDENTSTYLE(トライデントスタイル)から発売され、5月に初来日し、日本デビューを果たす。
バンドを連想できない名前
正真正銘のバンドになった時に分かってもらえる名前
メンバーの4人はそれぞれアートスクールに通っていましたが、映像、グラッフィックデザイン、写真、建築に興味があって、音楽を専攻していたわけではありませんでした。昔からの知り合いで、オークランドのグレイ・リンにあるフラットで共同生活をしていました。ある時、知り合いのグラフィックデザイナーの仕事を一緒に手伝った時に意気投合し、バンドをやろうということになり、1999年に活動を始めました。「Goodshirt」というバンド名は友人がビバリーヒルズで買った青いシャツを送ってくれて、それを家で着ていたら、父親がそれを見て「That's a good shirt!」と言ったことから名付けたわけです。しっかりしたバンドに成長するまでバンド名とは分からない名前を探していた時にGoodshirtという単語に出会ったわけです。Goodshirtはどうかとみんなにきいたところ、大笑いしてその場で決まりました。
「Goodshirt」にはベースがいません。と言うより、ベースはいらないのです。シンセサイザーでベースの音を全てカバーしてしまうからです。シンセサイザーはベースよりも融通がきき、自分達の目指す音に近いものを創れるからなのです。そんなところから、「Goodshirt」は80年代のニューウェーブとか、エレクトリック・ポップバンドとか、初期のRoxy Musicに似ていると言う人もいます。しかし、自分達としては、どのジャンルに属していると一言で括りたくはないと思っています。ポップもあれば、ロックもあり、アコースティックもあります。
デビュー前はライブとデモテープのレコーディングの繰り返しで、売り込みに必死でした。99年にはラッキーなことにニュージーランド・ミュージックの大御所と言われるDave Dobbynの前座を務めることも出来ました。
レコードレーベルは自前
大手レコード会社と契約するが、CD製作とプロモーションと販売のみお願いする
2001年にアルバム「Good」をリリースしてデビューすることが出来ました。大手レコード会社のEMIニュージーランドと契約しましたが、レーベルは自分達の「CEMENT RECORD」で、EMIにお願いしたのはCD作りとプロモーションと販売です。大手と契約すると曲をたくさん作れと言われがちなのですが、自主レーベルを持つのは自分達で曲作りとレコーディングの主導権を握っていたいからです。ラジオでもどんな曲が人気を得て、DJがどの曲をどの位オンエアしてくれるかはわかりません。ですから、たくさん作った曲の中から人気の曲が出てくると言うよりも、みんなが聴きたいと思う曲を作ることが大切です。ですから、いつでも曲作りに時間を割きたいと思っています。曲作りとレコーディングに自主性を持てると言うことは締め切りなどのプレッシャーを感じることなく、いつも前向きでいられるメリットがあります。
レコーディングは自分達の住むフラットの裏にある小屋でやることにしています。多くのバンドがガレージや裏小屋から活動を始め、有名になるとより設備の整ったスタジオに活動の拠点を移動しますが、「Goodshirt」は最後まで自分達で創り上げる道を選びました。これはニュージーランド人がもともと得意とするDIYマインドに通じるものだと思います。
小屋は2×3メートル四方の小さなものでコンピューターやプログラミング機が山積みされています。コンセントは隣にある洗濯機と共同です。自主制作のレコーディングされたものはあまりクオリティが良くないと思われがちですが、街中にあるプロのレコーディングスタジオの賃貸料に費やすお金をレコーディング機材の購入に費やしてきました。自分達がレコーディングスタジオを持っているわけですから、時間に関係なく、ひらめきがあった時にすぐ対応できる良さがあります。それで、レコーディング担当のマレーがレコーディングとミキシングのスキルを飛躍的に向上させました。
ライブで着るコスチューム、ビデオクリップにもこだわる
ビジュアルにこだわるのは、アートスクールに通っていたことと関係あると思います。ライブでは長いゴスペル調のオレンジローブや白い宇宙服も着たことがあります。また、ビデオクリップも他とは違ったものを作る工夫をしています。例えば、一枚目のアルバム「Good」に入っている曲「Sophie」は女の子がヘッドフォンを付けて「Sophie」を聴いている間に黒ずくめの我々4人が部屋から家具を始め部屋にあったものすべてを運び出してしまうストーリーのビデオクリップですが、これがオンエアされてから、「Goodshirt」はクリエイティブなちょっと変わったバンドというイメージが定着しました。『Juice TV』や『C4』などでビデオクリップを見る機会が増えて来て、ビジュアルは今まで以上に大切だと感じています。音楽は写真や映像と同じようにそれに触れた人に影響を与えるものです。ビジュアルはバンドを助ける一つの重要な要素だと思います。
「Sophie」はシングルカットされ、2002年に唯一ニュージーランドの曲でNo.1を獲得し、それを8週間続けました。そして、NZ MUSIC AWARDS 2003のシングルオブザイヤー、ベストソングライティング、ベストビデオを受賞しました。また、バンドとしてベストグループの一つに選ばれました。今年のBIG DAY OUTではイギリスのビッググループ「The Darkness」の前に演奏することも出来ました。
そして、今年の2月には2枚目のアルバム「Fiji Baby」をリリースしました。実はフィージーには行ったことがないのですが、ハミルトンに行った時、「ホリデー気分になろうぜ!」「そうだ、フィージーに来ているつもりになろう!」という事から出来た曲です。子供の頃、場面を想像して遊んだように、イメージを膨らませて、新しい世界に浸る気分を表現しました。
そんなところに面白さを感じたので、最近の曲作りの傾向は矛盾したものを表現することが多くなりました。つまり、無いイメージを有るようにしたり、明るいものに潜む暗い部分だったり、歌詞は暗くても曲がアップビートの曲もアルバム「Fiji Baby」には含まれています。
もう5年も一緒にいるので、メンバーとはまるで兄弟のようになって来ています。「Fiji Baby」を制作する時にお互いに衝突がありました。兄弟のようにぶつかり合うのです。しかしこれがいいアルバムを作るのにプラスになっています。
海外デビュー
すでに日本を含む3か国でデビューを飾る
去年はインディーズバンドの世界的祭典といわれるアメリカのテキサスで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に招待されました。ここには世界中の音楽メディアが集まります。過去には「Norah Jones」、 「The Darkness」などがデビューするきっかけとなった祭典です。「Goodshirt」もSXSWに参加したことで、海外デビューのきっかけになったことは確かです。今までにデビューしたのは、オーストラリア、カナダ、日本です。
今年もSXSWに招待されましたが、今年は参加できませんでした。なぜかというと、日本デビューと日にちが重なってしまったからです。4月にファーストアルバムの「Good」が発売になり、5月末に初めて日本に行きました。東京でライブとCDショップイベントをこなし、名古屋、福岡でラジオ出演、そして、多くの雑誌から取材を受けました。将来は日本のブッキング・エージェントと契約し、もっと日本ツアーができるようになるといいと思っています。
このところ、ニュージーランド・ミュージックが北半球、特にイギリス、アメリカ、そして日本で注目されて来ています。南半球の島国はまだ世界の大きなマーケットの中では未開拓で、このところ、次々と新しい才能が生まれてくるというので注目度が上がっているのです。今まで世界で評価される事も少なく、世界デビューの機会もほとんどないと思われていたニュージーランド音楽にとって、このところの追い風は、各アーティストが本当に世界に行けると実感できる事実なのです。