ニュージーランドのスポーツ界で2003年最大の関心事が二つある。一つはラグビーのワールドカップでオールブラックスが優勝できるかどうか、そして二つ目はチーム・ニュージーランドがアメリカズ・カップを再び防衛できるどうかだ。今年10月にオークランド沖で開かれるアメリカズ・カップはヨットレースでは世界最大規模と言われ、開催期間が6ヶ月にも及ぶだけにニュージーランドにもたらす経済的効果も莫大だ。カップ再防衛への国民の期待が高まる中、総勢80人のチームニュージーランドを率いるのがC.E.O.(最高責任者)ロス・ブラックマンだ。


今年は10月1日に注目!
 アメリカズ・カップとは150年以上の歴史を持つヨットレースの大会で世界ではもっとも歴史のあるスポーツイベントだ。オリンピックやサッカー、ラグビーのワールドカップなどと違い、カップを保持しているヨットクラブのある場所で開催される。来年3月のアメリカズ・カップに挑戦するためにはまず、10月から始まるルイ・ヴィトンカップで勝たねばならない。約4ヶ月をかけて行われるレースで勝ち残ったシンジケート(チーム)のみがチーム・ニュージーランドに挑戦できる。

 チーム・ニュージーランドは1995年アメリカのサンディエゴで行われたアメリカズ・カップで勝ち、カップをオークランドに持って来ました。そして前回1999年のアメリカズ・カップでも勝ち、アメリカ以外の国で初めてアメリカズ・カップの防衛に成功しました。その結果、再びこの帆の街といわれるオークランドでアメリカズ・カップを開催することができます。
 今回のルイ・ヴィトンカップは10月1日、アメリカズ・カップは来年2月15日から始まる予定です。我々チーム・ニュージーランドはルイ・ヴィトンカップの初日から約4ヶ月間はどのチームが挑戦してくるのかをずっと待っていなければなりません。
 今のところ、ルイ・ヴィトンカップに参加を表明しているのは7カ国10シンジケートです。日本からは毎回参加していたニッポン・チャレンジが不参加なのですが、今年3月の締め切りまでエントリーをオープンしていますので、ぜひとも日本からも参加してもらいたいと思っています。何か動きがあるとは聞いているので、楽しみにしています。

「ファミリー・オブ・ファイブ」
 今回の大会に参加するシンジケートに見られる特徴と言えば、ひとりの大金持ちによる資金力豊富なところが多いこと。製薬会社のオーナー、IT関連企業の創業者など資金力にものをいわせ、世界中から優秀なセーラーをリクルーティングして、アメリカズ・カップ奪取を目論む。

 チーム・ニュージーランドは大金持ちに頼っているわけではなく、前回と同じ「ファミリー・オブ・ファイブ」のもと、5つのスポンサーがバックアップしてくれています。今回はテレビジョン・ニュージーランドの代わりにドイツのコンピューター会社SAPが入っています。
 今やアメリカズ・カップはグローバルゲームといわれ、クルーやスポンサーは多国籍が当たり前のようになって来ています。チーム・ニュージーランドでも前回のフランスシンジケートのスキッパー(艇長)「ベルトラン・パセ」を迎えています。また、チーム・ニュージーランドにいたクルーの多くが今回はいくつかの他のシンジケートに移籍しています。これはニュージーランドのセーラーが優秀だという証だと思います。


重い責任
 チーフ・エグゼクティブというポジションは最高責任者と訳される。シンジケートを運営する資金の元となるスポンサー探しとそのもてなし、総勢80人にもおよぶスタッフの管理と採用、メディアへの対応、大会のスケジュール作りなど、ビジネス界の経験のほかヨットマンとしてヨットの建造とレースに関する専門知識も要求される。

 私はニュージーランドが初めてアメリカズ・カップに挑戦した1988年はセールメーカーのマネージャーとして、2回目の92年はビジネスマネージャーとして、3回目の95年はキャンペーンマネージャーとしてアメリカズ・カップと関わって来ました。ちょうど3回目にアメリカズ・カップを奪取できたのです。英語では「The third time is lucky」ということわざがあるのですが、日本にもありますか?
(編集部注:3度目の正直)
 現在の私はチーム・ニュージーランドとイベントとしてのアメリカズ・カップ運営組織のチーフ・エグゼクティブという二つのポジションを兼任しています。アメリカズ・カップの大会スポンサーも「ファミリー・オブ・ファイブ」として5つのスポンサーが必要なのですが、今のところニュージーランド航空とフジ・ゼロックスの二社だけですので、これから三社を探さねばなりません。


カリスマからポジションを引き継ぐ
 前回の99年大会では特にチーム・ニュージーランドとのかかわりはなく、ビジネスの世界で生きて行こうと思っていた。しかし、チーム・ニュージーランドの中枢となるメンバーが他のシンジケートにスカウトされ、チームの存続にも関わるような大事件が起こった。

 トム・シュナッケンバーグ(もうひとりのチーム・ニュージーランドC.E.O.)からC.E.O.となってぜひ力を貸してくれと頼まれました。ヨットの世界からは足を洗うつもりでいましたし、このポジションはあまりに重い責任がのしかかって来ます。
 前回大会ではカリスマ的存在の故サー・ピーター・ブレイクでさえもプレッシャーを感じたというポジションでしたので本当に悩みました。一人でビーチを歩いて何時間もじっくり考え、家族とも話しあった末に引き受けることに決めました。
 私は彼のような輝かしいヨットの経歴はありませんし、カリスマ的な存在でもありません。彼はヨット界ではあまりに影響力のある存在でした。たとえば、スポンサーを集めてのミーティングでも彼はオーラを放ち、自らを全面に出して、たちまちのうちにスポンサーをその気にさせてしまいます。
 そのポジションを私が引き継ぐことになったんです。私ができることは故サー・ピーターとは違う方法、つまり、ビジネスの世界での勘と経験を生かすことだと思っています。
 ビジネスの世界で必要とされる企画力、提案力、マーケティング力、予測力、営業力、管理能力などを生かすことです。今までのところ、いい結果が出ていると思います。これもチーム・ニュージーランドのスタッフが一丸となっていること、故サー・ピーターが前例を作ってくれたことが大きな要因です。


次の課題
 アメリカズ・カップのシンジケートは一つの企業体と同じで常に世代交代を考えていなければならない。いつでも若い世代にバトンを渡せるよう後継者を育成する必要がある。

 セイラーやデザイナーは次々といい人材が育って来ていますが、管理部門は未だに人材不足です。ヨット界とビジネス界の知識と経験が必要とされますので。今回は間に合いませんが、再び防衛したら次の大会の途中で30代の半ばの適切な人材にバトンを渡したいと思っています。


まさにCity of Sailsでのビッグイベント
 今回参加する各シンジケートの資金を提供する大金持ちたちは前回の99年の大会を観戦し、オークランドでの華やかで多くの人が注目する雰囲気を肌で感じ、アメリカズ・カップに勝てば自分の国でこのイベントを開催できるという夢を持つようになった。

 それだけ前回のオークランドでの大会がすばらしいものでした。ですからオークランドは今までで一番アメリカズ・カップにふさわしい都市だと言われるようになったわけです。
 ルイ・ヴィトンカップ、アメリカズ・カップの開催期間はヴァイアダクト・ハーバー周辺の雰囲気をぜひ味わってください。連日開かれるパーティー、レースの模様を伝える大きなスクリーン、チームへの声援など、これらはオークランドでの時間をきっと忘れがたいものにしてくれると思います。

   
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