ニュージーランド観光局は首都ウエリントンに本部を構え、ニュージーランドを観光地として世界中にプロモーションする政府機関だ。観光業が酪農業と並ぶニュージーランドの主要産業であるだけに、政府の力の入れ方も日本の比ではない。
 ジェーンさんが所属するインターナショナル・メディア・センターは、観光局本部があるウエリントンから離れて、様々なメディアが集中するオークランドにオフィスがある。仕事の内容は世界中のメディアにニュージーランドをプロモーションする事。現職に就くまでニュージーランドの主要なメディアに関わっていた経験を生かして、世界中の人達の注目をニュージーランドに集めるためにエネルギーを注いでいる。

●INTERNATIONAL MEDIA PROGRAMME (IMP)とは?
 ジェーンさんがマネジャーとして関わっているインターナショナル・メディア・プログラムとは世界のメディアにニュージーランドを取り上げてもらい、ぜひニュージーランドに行ってみたいと思わせる内容を紹介してもらう事が主な仕事だ。

 
 私の所属するインターナショナル・メディア・センターはニュージーランド観光局の一部署にあたります。ニュージーランドに取材に来るメディアに対して取材先、宿泊先、移動の手段、アクティビティーなどのアレンジを提供すること。そして、スムーズに取材ができて、ニュージーランドに対していい印象を持ってもらえるようにする事です。また、ニュージーランド各地区の観光協会などとも協力して、取材対象となりそうな興味深いものを紹介し、メディアにできるだけニュージーランドを楽しんでもらい、ニュージーランドの良さがわかってもらえるようにする事なのです。
 もちろん、どんなメディアにもそうしたサービスをするわけではありません。現在12カ国にニュージーランド観光局の事務所があり、それぞれの国や地域のPRエージェンシーとも協力し、どのメディアがどのくらいの影響力があるのか、慎重にメディアの選択を行い、年間約500〜600本のメディアのサポートを行っています。その総括をするのが私の役目です。
 このオークランドのインターナショナル・メディア・プログラムには私を入れて11人のスタッフがいます。ウエリントンの本部から離れてオークランドにあるのは、ほとんどのメディアが入国か帰国の際にオークランドに立ち寄るので、各スタッフが可能な限りメディアの担当者と会って個人的な、いい関係を作る事を重要と考えたからなのです。ウエリントンにいたのでは本部には近いですが、各メディアと会う機会は少ないですからね。
 そうしたメディアでの露出はニュージーランド観光局が現在行っている"100% PURE NEW ZEALAND"の広告キャンペーンを補足する事にもなりますし、テレビの番組や新聞、雑誌の紙(誌)面で取り上げてもらえる時間やスペースは広告費に換算すると莫大な金額になり、とても買えるものではありません。ですから、メディアでニュージーランドを紹介してもらう事は大きなメリットがあるのです。

●過去の経験を生かした現職
 ニュージーランドに長く住んでいる読者の方々ならばジェーンさんがTVNZのレポーターとしてブラウン管に登場していたのを覚えているかも知れない。

 私はTVNZに23年間勤務し、レポーターとして主にスポーツ番組の制作を担当していました。過去に3度のアメリカズ・カップ、3度のオリンピックをカバーしました。
 アメリカズ・カップは1986-87年のパースを皮切りに、サンディエゴで1991-92年、1995-96年とレポートを行いました。特にチーム・ニュージーランドがヤングアメリカを破ってアメリカズ・カップを奪取した95-96年大会は今思うとニュージーランドという国にとってまさに歴史的な瞬間でした。その瞬間を見届けられたことは未だに忘れられません。
 その後、TVNZを離れ、オールブラックスのメディア統括の仕事に就きました。TVNZでの仕事が取材の依頼をする側にいたのに対して、この仕事は依頼された取材を割り振りして、オールブラックスをメディアに上手に取材してもらう段取りを行います。オールブラックスともなれば世界中のメディアから取材依頼の電話が入って来ます。1999年にウェールズで行われたラグビーワールドカップでは一日に70〜80本以上の取材依頼の電話が入り、20〜30本ほどのメッセージが携帯に残されているという忙しさでした。各メディアには締め切りがありますので、うまく時間を見つけてやり繰りしなければなりませんでした。この仕事ではメディアはどのように取材を申し込んで、どのような取材をすれば、取材対象側によく受け入れられるのかという、メディアを別の側面から見る事ができたので、今の仕事に大きく役立っています。
 当時はオールブラックスというラグビーチームでしたが、今はニュージーランドという国のプロモーションが仕事です。オールブラックスというニュージーランドのアイコンをプロモーションしていたという点から言うと、結局ニュージーランドという国をプロモートしていたのと同じ事だったのです。
 
●日本のテレビで次々紹介されるニュージーランド
 昨年末から今年の始めにかけて、テレビでニュージーランドを紹介する番組を目にする事が多い。多くの視聴者が確保できるテレビ番組に力を注ぐという観光局本部の戦略のもと、インターナショナル・メディア・プログラムの努力の成果が現れている。

 インターナショナル・メディア・センターには観光局がターゲットとする地域や国を担当するメディア・アドバイザーがいます。日本は高橋直子さんが担当しています。日本は大きなマーケットですので、見逃す事はできません。日本でのテレビの力は何と言っても大きく、一度にニュージーランドの全人口の数倍が番組を見る事が可能だからです。
 内容は1〜2時間ほどの特別番組で著名人を起用したものがこのところ多くなっています。オンエアされた番組を紹介しましょう。保坂尚樹を起用した「道浪漫」 (TBS系列)、クイズ番組「世界ふしぎ発見」(TBS系列)、「高樹沙耶、立河宜子ニュージーランド癒し旅〜新しいライフスタイルの発見〜」(テレビ朝日系列)、「伊東四郎親子のニュージーランド悪戦苦闘大冒険」(テレビ朝日系列)、「田中美佐子、清水ミチコの人妻!ニュージーランド日記」(日本テレビ系列)というように昨年11月から、今年2月にかけてこれらの番組でニュージーランドが紹介されました。
 日本ではニュージーランドが適度にメディアに出ており、その影響力も大きいので、効果が出て来ています。

●2001年9月11日
 実は9月11日にジェーンさんは運悪くニューヨークにいた。

 
 ロサンゼルスにあるニュージーランド観光局のスタッフ二人と一緒にニューヨークで仕事をしていました。ワールドトレードセンターが狙われた時にニューヨークにいたという事を思い出すと、今でも寒気を催します。
 事件後は飛行機の予約が取れず、5日間は身動きがとれませんでした。ちょうどTVNZからテロ事件の模様をレポートして欲しいと言われましたので、テロ直後の様子を電話で伝えたり、またスタジオ入りして生の情報を伝えました。
 その後、やっとニューヨークから飛び立った時、心からホッとした一方、このテロ事件をきっかけに知り合った人達を残骸の残るニューヨークに残して行かなければならない事に寂しさを感じました。
 ニュージーランドに戻って来た時は本当に安心しました。いつも海外から帰ってくるとこの国の良さを実感しますが、この時ほど、ニュージーランドの良さ、ニュージーランドで生活している幸運を実感した事はありません。

●訪れる価値のある国としての「質」 
  テロ事件の後、ニュージーランドも観光客数が激減した。それ以前はアメリカからの旅行者が順調に増えており、観光局が使うアメリカ向けのプロモーション費も増えていたが、テロ直後はアメリカ向けにプロモーションをしても効果が期待できないという観光局の判断で、他のマーケットにそのお金を割り振った。その一つが朝日新聞に掲載されたヘレン・クラーク首相の「ニュージーランドは、平和です。」の全面広告だ。

 今はもう観光客が戻って来ているのを感じています。そのきっかけになったのかも知れないイベントがこのところ立て続けにあり、観光局も積極的にメディアをニュージーランドに招待しました。まずは、映画「指輪物語」の世界先行ロードショーでした。撮影はニュージーランドで行われ、ニュージーランド人のピーター・ジャクソンが監督という事もあり、観光局も力を入れて世界中にプロモーションをしました。そして、2月にアメリカズ・カップの前哨戦「アメリカズ・カップ・インターナショナル・レガッタ」がありました。前哨戦でしたが、観光局がターゲットとしている国から来たメディアが大きく紹介してくれました。今年10月のルイ・ヴィトンカップと来年3月のアメリカズ・カップではさらに世界中のメディアが注目しますので、ニュージーランドを紹介するのに絶好の機会なのです。
 私の仕事の最終目的はただ単に観光客数を増やす事ではなく、ニュージーランドが他の国にはない独自の特色を持っている国、感動を与えてくれる国、訪れるのにふさわしい国という質の面を理解してくれる人を増やす事なのです

   
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