和食店のシェフである工藤さんは英語そのものを仕事の武器にしているわけではない。しかし、彼の自宅に電話をかけたキウイは皆一様に、工藤さんの英語をネイティブスピーカーのそれと間違えるほど、綺麗で正しい、英語を話すという。 英語との関わり 習得方法(Reading) 習得方法(Vocabulary) その後、88年の1月にニュージーランドにワーキングホリデイで来ました。当時は21歳でした。海外経験を積むのであれば若いうちがいいと思い会社を辞めてきました。ニュージーランドを選んだのは私の中で未知の部分が多かったためです。その頃は、私の中ではニュージーランドとパプアニューギニアとの区別もままならないほどの認識しかありませんでした。 到着後、すぐに英語学校に通い始め、そしてキッチンハンドのアルバイトも始めました。このときに、ある程度の、英語の土台ができたような気がしています。キッチンハンドでキウイの中に飛び込んでいったときに何をどういったらいいのかわからないことが多々あり、随分と、悔しい思いをしました。自分と同じくらいの年齢の人間がスラスラ話しているのに、自分は言いたいこともまともに言えないというのはストレスが溜まりました。とにかく、相手の言っていることを良く聞きました。そして私が話をするときは、キウイの発音などを忠実に再現するようにしました。アルバイト先ではひたすら、それに没頭しました。1年間は英語の中で生活することになるのだから、ちゃんと話ができるようになりたいという動機があったからです。 音をそのまま入れて、同じ音で発音する。単語を見ないようにしました。つまり目からは情報を入れないようにしました。例えば、ビールの「スタインラガー」はキウイ達から聞けば「スタインラガー」と聞こえます。しかし文字を見ると「ステインラガー」と読んでしまいそうになり、発音が少し違ってきます。そのため、私は敢えて、音だけの情報を入れることにしました。またそれを、ニュージーランドで実践するのは大変意義のあることでした。仕事中には私の持っている英和辞書には載っていない言葉が多く出てきました。Snapper(鯛)はその典型ですね。 もう一つ、英語学校ですが、実は1年間通いました。といっても、毎日行ったわけではありません。初めに週に5日のコースを取ったのですが、昼間に学校、夜に仕事の生活が結構ハードだったため、校長先生に直談判に行き、週3日にして、期間を長くしてもらいました。しかし、それでも体力的にきつかったため、週に1日にしてもらい、また延長ということになり、結局1年間通ったことになりました。 単語から文法へ こちらに来て、仕事をしたり、学校に行ったりしているときに英語に対しての考え方が変わってきました。それまでは英語イコール単語、単語の羅列で英語は通じると思い、単語量を増やしていました。しかし、文法がしっかりしていなければ、通じない、言いたいことが正確に伝わらないと感じました。逆に単語がわからなければ、聞けばすむことであるということも感じました。 例えば、時制についてですが、「私はAということがやりたかった、でもできなかった」ということを伝えるときに、単語を並べただけであれば「私はAがやりたい」という意味に取られてしまいます。会話の中でニュアンスとして、相手が言っていることは理解できましたが、いざ自分が話すというと、やはり文法を知っていなければ伝えられません。これでは、日常会話のレベルで不自由になってしまいます。 そのため、文法を勉強することにしました。オークランド大学の書店でグラマーの本を購入し、辞書のときと同じように、表紙から読み始めました。全部で3冊、すべて2、3回読みました。 仕事や生活を通しての習得 パーマネントビザを取得後、仕事をしながら再び学校に通いました。それは仕事にはまったく関係がないことでしたが、ビザを持っていれば学費も安いということもあり、日本語でやっていたことを英語でもやってみたいと思ってAIT(現AUT)の機器分析のコースにパートタイムで通いました。 これまでの中で、一番難しかった気がしますが、ここで勉強したことが英語ということでは、力になったと思っています。週に1回の講義ですが、英語を覚えるための授業ではないので、初めのうちは先生が言っていることも100%理解することはできませんでした。自分は英語を全然わかっていないということに気づかされました。 授業後に先生に質問する、家に帰って教科書や文献を何度も読み直すということを続けました。これにより、単語と文法それぞれ、覚えてきたことがひとつになりました。 私の英語はほとんどが仕事や生活を通して得たものです。それは日本での研修、仕事、ニュージーランドでの仕事、そして学校。生活するために、仕事をするためには必然となり、英語を得てきました。英会話の研修、仕事で文献を読むこと、語学学校、厨房での会話、AUTでの講義、それぞれ異なる場面で、色々な立場の人たちから、それぞれの単語や言い回しなどを学び取ってきました。すべてのことを英語の勉強に結び付けていたと思います。それがなにより良かったのだと感じています。 ニュージーランドではずっと調理関係の職に就いていました。今は、英語そのものが仕事になっているということではありません。ただ、いろいろな学び方を通して、一つにまとめたという方法論は役に立っています。例えば、お店のメニューでも、一つの方向性だけにとらわれることなく、色々な味や素材を取り入れ、バラエティに富んだ、お客さまがメニューを開いた時にどれにしようか迷ってしまうくらい、品数のボリュームがあるメニュー作りをしています。 また、お店に来て頂いたお客さまとの会話の中で、きれいな言葉を使って、料理の説明をし、相手に正しく理解して頂くことも心がけています。それは目や舌だけでなく、料理を言葉でも理解し、よりいっそうおいしく味わってもらうことができるからです。 工藤達博さんの英語上達ポイント 1 辞書を読書。後に単語を覚えるベースとなる 2 読むのであれば表紙から。その行為自体の意味はなく、英語を習得しようという意志につながる 3 色々な状況で英語を学び取る。生活や仕事の必要からする勉強は長く続けられる。 |
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