E-CUBE 2005年04月

VOL.39 4月号


NZで活躍する日本人

時代を飾るキウィ




Career up in NZ : 専門職に就いてキャリアアップ中

<シェフ:金 浩二 さん | メイン | ハンティング・ガイド・コーディネーター:結城 将輝 さん>

造園デザイナー:鈴木 洋平 さん

鈴木 洋平 さん庭いじりの楽しさを出来るだけ多くの人に知ってもらいたい

庭を造るうえで一番重要なことは手入れなのだと鈴木洋平さんは言う。どんなにデザインが素晴らしくてもきっちり手入れがされていない庭は乱雑な印象を与えることしかできず逆に細部にまで手入れの行き届いた庭は人の心を癒すことさえできる。

鈴木 洋平 (すずき ようへい)
1978年生まれ。神奈川県藤沢市出身。 2003年11月にNZへ渡航、現在はワークビザにて滞在。自宅の家庭菜園でトマトやブロッコリーなどを育てているが、鳥の攻撃から野菜を守るためにかかしを作ったりネットを張ったりと、日々奮闘している。休みの日はそこで取れた野菜を使って得意のピザを作ったりしている。

庭師の道へ

 庭師になろうと思い始めたのは、中学生の時に引越した先で業者に依頼して庭を造ってもらったのがキッカケでした。純和風の庭で、門から玄関までの道には御影石が敷かれ、道の右側に目隠しのための雑木、左側には石造りの小さな池、そして池の周りにはツバキが植えられ、自然な感じの見ているだけで心が落ち着くような庭でした。学校から家に帰るたびに庭が徐々にでき上がる様子を見るのが楽しみで、その過程を見ながら自分も将来は人を和ませるような庭を造りたいと思ったのです。
  大学では生命科学を専攻し、植物を含めた生物全般の遺伝子や生理活性について勉強しました。卒業後は学んだことと直接は関係なかったのですが、家の庭を造ってくれた親方にお願いして働かせてもらうことにしました。そこでは剪定、レンガ、ブロック工事、木工仕事など、庭に関するあらゆる技術を基礎から学ぶことができました。親方の造る曲線的なデザインの庭はとても自然な感じで好感が持て、さまざまな面で影響を受けました。
 他にも、親方はリサイクル製品をよく活用していました。廃材のフェンスがドアになったり、植木のトレーを集めて周りをモルタルで固めて花壇の淵にしたり、とにかくさまざまな廃材を上手に利用していました。コスト削減はもちろんのこと、地球環境保護にも役立つ良いアイデアだと思いました。
 庭師として働き始めて約2年半ほど経ったころから、他にもいろいろな国で仕事をしてみたいと思い始めました。そこで昔から興味があり、一度は行ってみたいと思っていたNZにワーキングホリデー制度を利用して渡航することにしました。豊かな自然に恵まれたNZは、山登り、ラグビー、サーフィンなどなどが大好きな私とって最適な国だと思ったのです。それに日本では仕事など忙しくてできなかった自由気ままに旅することも、この国でなら実現できそうだと思ったのです。

NZへ渡航

 NZでの最初の5ヶ月はいろいろなところでファームステイをしたり旅行をしたりと、気の向くままのんびりとした生活を送っていました。
  もともと興味があった有機栽培をしているファームにエクスチェンジでステイしていたときは、ファームの仕事以外に庭の手入れなどもしていました。そのお宅には大きなプールがありましたが、家からそこまでは急な傾斜がついていたため、雨が降った後などは滑りやすくなっていました。そこでオーナーに階段を造ることを提案すると、喜んでそのアイデアに賛成してくれました。日本での経験を活かし、レンガ造りの滑らかな曲線を描くようなデザインの階段を造りました。自分のデザインで施工したのは初めてのことでしたが、オーナーはもちろん、訪問客からも好評で、自信につながりました。
 そしてそろそろ就職したいと思い、ホストファミリーにも手伝ってもらって新聞の求人欄で造園関係の会社を探し、数社にCVを送りました。そして、そのうちの1社Sherylle Scott Landscapeから働いてみないかという連絡が入り、2日後からそこで働くことになったのです。

現地のデザイン事務所へ就職

 上司のSherylleは造園デザイナーです。NZに来る前はNZ人はみんなオオザッパだというイメージを持っていましたが、彼女は非常に丁寧で細かい所まで注意の行き届く人です。そして彼女のデザインする庭は、色とりどりの花を植えるような庭ではなく、単一の植物を使ったラインを大事にする、統一感がある庭です。植林する際の間隔も正確で1cmの誤差も許さないといったデザインは、日本で手がけていたものとは対称的で最初は戸惑いました。しかし、そうして造られた庭は非常に清潔感が漂う庭になることに気付き、正確さの重要性を学びました。
  彼女は施工はできないため、工事は業者に依頼していたのですが、今ではそれらの仕事をすべて私が任されています。日本で学んだそれぞれの植物に対する剪定のやり方などを含む植物全般の知識や、レンガ、ブロック積み、木の移植など庭造りに関する技術が、彼女との信頼につながっていると思います。また、大学で得た知識は、植物を理解するのに大変役立つなど、この仕事をするうえでのベースにもなっています。
 学生時代、特に英語が苦手だったわけではないのですが、仕事をする上で一番の問題はやはり英語で、英語が理解できないがゆえの失敗は数え切れないほどあります。特にローカルの人の発音は聞き取りにくく、理解するのに苦労します。
  働き始めてまだ間もないころ、あるクライアントの依頼でユッカという木を8本と、パームツリーを数本抜いたことがありますが、そのとき業者がやって来てキウイアクセントの英語で何か言ったかと思うと、ユッカを全部持っていってしまいました。てっきり上司がその業者を呼んだのだと思い込み、その木を運ぶのを手伝ったうえに「Thank You」とお礼まで言って笑顔でユッカと業者を見送りました。しかし、実は上司が依頼したのはパームツリーの方で、ユッカではなかったのです。ユッカは亜熱帯風の風貌に加え、手入れが要らず育てやすいことから人気の植物で、他の庭を造るときなどに利用できたのです。
 その他でも言葉の壁はいつも問題になっていますが、「習うより慣れろ」方式で、テレビ、ラジオには積極的に耳を傾けてそこで話されている英語を理解するよう努めたり、きるだけ自分から人に話しかけ、日常の些細な会話でも大切にするように心がけています。

NZと日本の庭の相違点

 NZは年間を通して温暖なため、日本では見られない植物が多く見られます。ボリューム感があってインパクトの強いAgabeや、カラフルでさまざまな園芸品種がでているBamilliaなどはこちらの庭ではよく見かけますし、生け垣にはつややかで美しい葉をもったGriseliniaが好まれているようです。
庭造りという点ではNZも日本も基本的に同じですが、デザインの視点からみるとさまざまな違いがあります。日本は四季がはっきりしていることもあり、四季折々の変化を楽しめるようにデザインされています。そこが日本の庭の素晴らしいところだと思います。
 逆にNZの庭の特徴は、芝生をベースに綺麗な植物で庭を演出していることです。これは芝生の種類にもよりますが、一年中青々と保たせるのに適した、温暖な気候に恵まれた国だからからこそできる素敵なところだと思います。
 その他には手入れの仕方も違います。日本人は木に対する思い入れが非常に大きいため、一本一本慎重に剪定しますが、NZでは大まかに刈り込みます。

常にクライアントの立場で

 造園工事の全工程を基本的に一人でこなしているので、大きな仕事になると大変です。特にセメントを使う工事だと途中で帰ることができないため、労働は長時間になり休憩もろくに取れなかったりしますが、庭がどんどん形になっていくのが楽しくて、特に苦に思ったことは一度もありません。
  そして一番大切なことですが、常にクライアントの立場になって仕事をするように心掛けています。忙しいからといって手を抜いてしまうとクライアントには必ず伝わってしまいます。人の心を動かせるほど美しい庭というのは、人が見えない細部にまでしっかりと手入れが行き届いている庭です。
 クライアントが造園過程を見学に来た際に、デザイン、施工に関して何か意見したときなどは、デザイナーである上司の考えや自分の考えを伝えると同時に、クライアントの意見を組み入れてデザインを再検討します。そのうえで可能な限りクライアントの意見を反映したデザインに変更するようにしています。
 また、実際に現場で仕事をしていると、必ずと言ってよいほど設計図と実際は違っています。実際の庭が設計図のように正方形または長方形になっていない場合は、寸法や角度を変え、最も視界に入りやすい部分の仕上がりが一番自然に見えるように調整します。また、水道メーターなど障害物がある場合、その場所によっては道の位置をずらさなければならなかったり、斜面になっている場合は傾斜の角度によっては段を造る必要が出てきたりと、その場の判断で変更しなければならないことがほとんどです。
 他にも遊歩道があれば、それが歩くためのものか見せるためのものかによって道幅を変えたりと、デザイン的な視点から変更することもあります。歩くためのものなら歩きやすい幅を、見せるためのものなら庭が少しでも広く見える幅を、作業のなかで探りながら決めていきます。
 家の雰囲気に合わせて庭を造ることも大切で、レンガを積むという作業一つ取っても、家の外壁や柵に使われているレンガが古い場合は新品ではなくリサイクルのレンガを使用し、目地が雑に入っていればそれに合せてわざと雑に入れるなど、庭だけが浮き上がってしまわないよう、周りとうまく馴染ませます。
  上司は私の意見を快く受け入れてくれるので、現場の作業に入る前の設計段階のときであってもデザインに対して積極的にアイデアを出すようにしています。
  将来は造園の技術面だけでなく、デザインから施工まですべてをこなせるようになりたいと思っています。大学で学んだ生命科学に関する知識を活かし、見た目や手入れのしやすさばかりを考えた人工的な庭ではなく、植物があるべき姿で生育できる、植物のサイクルまでを考えたより自然な感じの、人間と植物が共存できるような庭を造りたいです。それもただ見せるためだけの庭ではない、その庭の持ち主が楽しんで庭いじりをできるような庭を造りたいと思っています。庭を造るうえで一番重要なのは手入れです。雑草抜きや剪定など、とても地味な作業ではありますが、この作業なしに美しい庭を作ることは出来ません。手間をかけて手入れをすればその分だけ庭は必ず応えてくれ、人の心を癒すことさえできるものです。そんな庭いじりの楽しさを出来るだけ多くの人に知ってもらいたいです。
  そのためにも、まだまだ自分には足りないものが多いので、近年中には造園の古い歴史を持つイギリスに留学してきっちりと造園の勉強をしたいと考えています。

造園デザイナー:鈴木 洋平 さんと連絡を取りたい、勉強したい、体験したい、資格を取りたい、この分野で仕事をしたいと言う方はイーキューブ留学セクションまで、お問い合わせ下さい。

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